子どもの競技人口の減少に関わる考察を一つ。引き続きご意見を求めたい。
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確かに今は、野球ができる環境が少なくなった。
住宅地の公園は「野球禁止」。バットを持っていると注意される。空き地も少なくなった。たまにあっても鉄条網や策で囲われていることが多い。自分が所有する土地で子供がけがをしたりしては大変だからだ。
馬場正平は家から歩いて5分の日吉神社の境内で、柔らかいまりで野球をしたのが始まりだったが、今や神社や寺院の境内も「野球禁止」になっている。

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けれども、昔だってそんなに野球ができるがふんだんにあったわけではない。都市開発前の町には小さな家がごちゃごちゃと建つ下町が多かった。広い空き地は郊外に行かないとなかった。高度経済成長期は、空き地にどんどん家が建っていたのだ。
学校の校庭では野球は出来なかった。野球用具を持ってくるのは禁止されていた。
学校の体育では、野球は教えなかった。

けれども子どもたちは、学校から帰ってランドセルを玄関に放り投げると、グローブ、バット、ボールをもって家を飛び出し、仲間と野球に興じたのだ。

場所はどこでもよかった。100坪もないような空き地でも、収穫が終わった後の田んぼでも(お百姓さんに目玉を食らったが)、駐車場の隅っこでも、どんなところでも野球をした。
掃除の時間に小学校の廊下で雑巾を丸めてボールにして、モップの柄で打っていたことを思い出す。

禁じられても、場所がなくても、人数が足りなくても、当時の少年は野球をした。とにかく夢中になって。

それはリトルリーグや少年野球とは毛色の違うものだった。そういう野球は、昔でも指導者がいて準備体操やランニングをしてから練習をしたが、子供たちの野球はいきなりバットを振り回し、ボールを打つようなものだった。
子どもたちの野球=野球ごっこには、大人が介入する余地はなかった。

あのころは、なぜあんなに野球に夢中になったのだろう。
今、思うと、当時の子供は、野球を通して「ヒーロー」になろうとしていたのだと思う。
子どもたちは、前の日にテレビで見たスター選手のまねをしていたのだ。

昭和40年代と言えば、プロ野球中継は巨人戦しかなかったから、関西の子供でも巨人の選手を応援した。
最大のスターが長嶋茂雄、次いで王貞治。赤い手袋の柴田勲も人気があった。捕手の返球を背中で受ける堀内恒夫も人気だった。
あとは阪神の田淵幸一か。江夏豊のまねをする子供もいたように思う。

長嶋が引退したころには、掛布雅之が大人気になった。ズボンを触ったり、バットの先端を見上げるような「ルーティン」は、みんなやっていた。
江川卓は人気がなかった。
小林繁のまねをする子供がいたのは、明石家さんまの影響だったか。

子どもたちが夢中でマネをした、最後の選手がイチローではないか。私の子どもの世代は子どものときにみんな、イチローのまねをした。右打席でも左打席でも、みんなイチローになった。

子供の好きなアスリートの推移 

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2015年は異なる調査なので、あくまで参考だが。
2009年の時点では、ベスト10に野球選手が6人いたが、以後は1~2人。イチローは2009年には圧倒的な1位だったが、以降、ポイントは激減している。2010年を最後に3割、200安打が途切れたから、当然ともいえるが、野球は以後、ヒーローを生み出していない。
2010年以降、少年野球の人口が激減していることの裏付けの一つかもしれない。

これに代わって浅田真央、澤穂希、本田圭佑、錦織圭と多様なジャンルのヒーロー、ヒロインが生まれている。
最近のアスリート・ヒーローはすべて「国際派」だ。ドメスティックなトッププレイヤーではヒーローたり得ない時代が来ている。

地上波での野球中継もなくなったから、今の子供の脳裏には野球選手の打撃フォームや投球フォームはもはや頭に入っていない。
そこのことが「野球ごっこ」衰退の主因ではないかと思われる。

興味深いのは、同時期に20歳以上の成人に聞いた同様の調査の結果だ。

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大人の場合、成績が衰えているにもかかわらず、2013年までイチローが1位。
そして2009年の時点でも、35年も前に引退した長嶋茂雄、29年も前に引退した王貞治がずっとランクインしていること。
大人(おそらく中高年)は、新しいヒーローが出てきても、好きな選手をなかなか変えようとはしないのだ。
子どもは世の中のトレンドに敏感に反応するが、大人はやはり保守的なのだ。

野球の競技人口が目に見えて減っているにも拘わらず、野球の観客動員が最多を記録したのは、主としてこの「子供と大人の意識の差」「時間差」によるのではないかと思う。

それでも2015年、スポーツヒーロー1位の座は野球のイチローからテニスの錦織に変わった。
今の子供が成人する5年後、10年後にはこのランキングも大きく様変わりしていることだろう。

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