NPBの新人選手の裏契約に関する問題は、報道があれば逐一追いかけたいと思うが、私は私なりに論点を整理したいと思う。
まず、経緯を時系列で追いかけたい。ドラフト制度の始まり。そして契約金の上限が設けられた91年以降。巨人のドラフト1位、逆指名、自由獲得枠などでの入団選手についても押さえたい。なかで朝日新聞の報道で裏契約が発覚した選手はえんじ色。また一般には発表されなかった事実については青色。

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今回の事件の契機は、1993年の「逆指名制度」の導入にあったはずだ。これまで、ドラフト制度はいろいろ変わったにせよ、選択選手が重なればくじ引きで決めるというシステムは維持されてきた。ここに例外規定を設けるというのは、大きな改変だった。

当然「ドラフトの精神をふみにじる」等の批判の声が高まることが予想された。「契約金の上限」の設定は、こうした批判を想定してのことだと思われる。

しかしながら、この設定は当初から完全に骨抜きだった。巨人軍が朝日新聞に出した抗議書によれば、

「新人選手とはいえども、優秀と誰もが評価する選手には、その評価に見合った契約金、年俸が提示されていいというのが12球団の一致した考え」

だったのだから。

巨人軍からの朝日への抗議に「このことを知らなかったのか」というニュアンスがあった。世間には知らされていないが、「契約金の上限」が骨抜きで、罰則規定も何もなかったことは、関係者には公然の秘密だったようだ。
「逆指名」とは選手の方から球団を指名してもらう制度である。高校生以外のドラ1、ドラ2に限り許される。そのときに球団は間違いなく「上限額」に多少の上積みをしていたはずだ。普通に入団するのと条件的に変わらないなら、逆指名を承諾する選手はいないと考えられるからだ。

結局、「世間がうるさいから、一応上限を設けておこう」というニュアンスで設けられたのである。NPBぐるみで世間を愚弄していたのだ。

巨人は「有名無実の取り決めを破ったからといって、それがどうしたというのだ」といっているのだ。

2001年の「自由獲得枠」は高校生を除く2名までの選手を契約締結内定選手にすることができる制度。「逆指名」の場合は、1順目、2順目の2名だったが、「自由獲得枠」は、ドラフト1順目指名が予想される選手を2名まで「先取り」することができる。金をかけてもいい選手をとりたい球団には有利な制度だ。事実巨人はこの制度ができた翌年、木佐貫、久保の2名を自由獲得枠でとっている。

先日の巨人軍の朝日新聞への抗議文に、この年、パリーグの小池会長が「(標準額をオーバーした分を“裏金”とするような)報道があった時に(文書で)反論するのがいい」とあるのは、自由獲得枠によって契約金高騰の批判の声が上がることを想定しているのだろう。

恐らく、このままいけば、自由獲得枠は3人になり、ドラフト制度は有名無実になったはずだ。

しかし2004年、一場事件が発覚し、NPBは大きな批判にさらされることになる。

Wikipediaによれば、このときに「ドラフト制撤廃、自由獲得復活」を主張する球団と、完全ウェーバー制を主張する球団が対立したという。この年は球界再編問題の勃発した年だ。渡邉恒雄氏は西武の堤義明オーナーと共同歩調をとっていた。自由獲得復活を主張したのは巨人、西武ではなかったかと思われる。また西武出身の根本陸夫氏(1999年死亡)が陣頭に立ち、裏金を駆使して急激に戦力を整備していったと言われるソフトバンク・ホークスもこのサイドではなかったか(2002年新垣渚の入団をめぐるトラブルで、オリックスの三輪田スカウト部長が自殺している)。

これに対して完全ウェーバー制を主張したのは親会社が上場していて裏金が使いにくい球団だったと思われる。
結果的には、このときに「自由獲得枠」が撤廃され「希望入団枠」に変わった。内容的にはほとんど変わらないが、「枠」は2人から1人になった。

しかしこの時点でも「契約金の上限」は「申し合わせ」のままだった。

今にして思えば、このときに、完全ウェーバー制でなく、ドラフト制が撤廃されていたとしても、今の状況よりはましだったのではないか。

NPBの創設以来、巨人をはじめとする球団は、有望新人獲得のために大金を投じたり、強引な手法を行使したりしてきた。しかしそのこと自体は、道義上の問題はあるにせよ、ルール違反ではなかった。それを取り締まるルールがなかったのだから。

アマ球界の反発や、世間の非難を受けて1965年にドラフト制度が設けられるのだが、以後も裏金や裏契約などは横行した。93年に「契約金の上限」が設けられたが、これも有名無実だった。不明朗な巨額の金が動く異様な状況は、誰も守る気がない「上限枠」の看板の下で維持継続された。
自分たちでルールを作っても、それを守ることができない。このほうがはるかに深刻だ。

恐らくNPBにはモラル・ハザードが起こっている。
自分たちで決めたことであっても守らなくてよい。世間は欺いても良い。嘘をついても良い。ドラフト制度導入以来47年、そういう“非常識”が、球界の“常識”になっていったと思われる。

深刻なのはNPBのメンバーに読売新聞、中日新聞という言論機関が入っていることだ。「社会の木鐸」たるべきメディアが、欺瞞に関与している。少なくとも不作為の罪を犯している。異様なことである。

モラル・ハザードが起こっているプロ野球界が、2007年に契約金の上限を「ルール」として正式に決めたからといって、きっちり守るとは考えられない。
違反球団は罰せられることになっているが、これまで処罰を受けた球団はない。これはみんなが順守していることを意味するのではなく、誰もチェックしていないことを意味しているのではないか。
40年以上野放しにしてきたことを、外圧もないのに突然改心して守るとは考えられない。

普通の感覚で考えれば、NPBは信用できない。
長野や澤村、そして他球団に入った大物選手たちも「一億円+出来高五千万円」を越える契約をしたり、便宜を供与されたりしていると考えるのが普通である。

「法律に触れていないから問題ない」「税務処理もしている」「全球団で申し合わせをしている」「関係者はみんな知っていたはずだ」

読売新聞、巨人の反論は、世間の感覚から大きくかい離している。モラルがマヒしている。昔はいざ知らず、今、このような感覚が通用すると思っているのなら、読売新聞自身も病んでいると判断せざるを得ない。

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