鶴岡一人の著書は、けっこうある。「私の履歴書」の自伝や、「御堂筋の凱歌」は、私の愛読書だが、なかに「ゼニになる野球」という一冊がある。
Zeni-01

ゼニになる野球

1968年に出された本だ。
鶴岡はこのオフに22年間務めた南海の監督を退任。この時期は阪神監督就任へ向けて交渉が進んでいた(結局、決裂)。
同時に解説者へのオファーも来ていた。

この本はMBS、大阪の毎日放送から出ている。鶴岡は翌年からNHKの解説者になるが、あるいはその前に毎日放送との契約が進んでいたのかもしれない。

野球に関する様々な話をしているが、中で、解説者としてどんな解説をするつもりかの心構えも書いている。またファンの心得も説いている。これは以前に紹介したのでここでは触れない。

鶴岡一人が説いた「ファンとはかくあるべし」|野球史


この本に、1968年オフ時点でのNPBの歴代記録が載っているのだ。
これがなかなか味わい深い。
こういうものだ。

Zeni002


本塁打は野村克也が1位に躍り出ている。それを山内一弘と王貞治が追いかけている。
みんな現役だったのだ。
通算安打は、この時点では小玉明利が現役1位。残念ながら小玉はこのオフに引退しているので2000本に届かず。
通算試合は山内の2058試合に吉田が122試合まで迫っている。吉田も引退寸前で、この年77試合しか出ていないから山内を抜けなかった。
盗塁数は広瀬が南海の先輩、木塚の記録に迫っている。広瀬は69年39盗塁、70年に28盗塁して木塚を抜いている。
福本豊はこの年にドラフト7位で阪急に指名され、この本が出たころには入団の準備をしていたはずだ。

次のページ

Zeni-003


打点は川上の1320に野村が迫っている。この年に楽々抜いている。
二塁打は榎本が独走。榎本もこの時期には調子は下降線で、409二塁打で終わっている。
この本で鶴岡は、榎本がスイングするときに口で「カキーン、カキーン」と言っていたと書いている。これも貴重な証言だ。
塁打数は山内がダントツ。
この時期まで、主要な打撃の通算成績は山内一弘が持っていた。それをON、野村、張本が追いかけていたのだ。
得点も同様。豊田泰光も今のように記録が重要視されていれば2000本安打は打っただろう。これは吉田義男、小玉明利も同様だが。
投手成績、金田正一は69年5勝し、きっちり400勝で引退した。
稲尾も現役だが、兼任監督ですっかり衰えている。杉浦も同様。村山は全盛期だった。
通算三振、江夏豊がプロ入り3年目で1000奪三振の期待がかかっている。
実際には奪三振王は取ったものの262個に終わって、かなわなかった。しかし4年目も340個で奪三振王。これは前人未踏、今後もアンタッチャブルだ。

この記録の部分は鶴岡一人ではなく、共著者の永井正義さんが担当した。
この方はプロ経験はなく、スポーツニッポンの記者からMBSの解説者になった。おとなしい解説だったが、記録に精通していた。

私は永井さんのこの本で、記録の面白さに目覚めたのだ。




「ゼニになる野球」は鶴岡さんの含蓄のある話と永井さんの記録はなしのカップリング。まことに楽しい本だ。
こういう本、今はないなあ、と思う。


2015年安藤優也、全登板成績【3年連続50試合登板、ベテランとして生きた見本】

私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください!


好評発売中