21世紀に入って、引退する名選手の成績は、急落しているように感じる。これは何を意味するのか。
山﨑武司は、中日からトレードでオリックスに移籍。「パ・リーグなんて嫌だなあ」と思った。監督の伊原春樹とは全くそりが合わず、2年目に現役引退を決意する。34歳だった。しかし山﨑のボスであるレオン・リーを通じてダン野村が山﨑に連絡し、新球団楽天でプレーすることが決定。2度目の本塁打王を取るなど活躍。しかし2011年には戦力外となる。今度こそ引退かと思われたが、中日に移籍。
中日首脳陣からは「お前と山本昌の進退は球団では決めない、お前自身が決めろ」と言われる。2年目の2013年、二軍落ちしたのをきっかけに引退を決意。

金本知憲は広島から続く連続試合出場の記録を2010年まで続けた。しかし、40歳を超えて成績は急落。それ以上に守備が悲惨に。四十肩を発症し、外野からの返球が不可能になっていた。しかし金本は試合出場に固執。球団側もこれを容認。フルイニング記録が途切れた4月17日以降は、先発して途中で退くことを繰り返し、この年も全試合出場、しかし規定打席に達しないという珍記録を作った。なおも2年、現役を永らえて引退した。

山本昌は44歳になる2009年以降、急速に成績が下落するが、中日首脳陣は引退勧告をすることはなかった。
数々の最年長記録を打ち立てたが、ほとんど戦力にならないままに7シーズンが経過。
山本は2015年の春に「今年で90%最後」と語る。実働29年、50歳での1軍試合出場、登板記録などを残して引退。

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谷繁元信は、横浜、中日で正捕手として抜群の成績を残す。40歳を過ぎて打撃は低調となり、肩も衰えるが、彼に変わる捕手が出てこないため、43歳になる2013年も130試合に出場した。2014年には兼任監督となる。後継者を作るために試合数は減ったが、それでも91試合に出場。
2015年のシーズン前にはOB会から引退するように、と声をかけられる。7月に野村克也のNPB出場試合記録を抜く。9月に現役引退を表明。翌年から監督一本となる。

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こうして名選手の引退の事情を見ていくと、野球選手の「プライドの在り方」が変わってきたことがわかる。
かつては「全盛期の姿を知る人に、みっともないプレーは見せられない」という考え方が大勢を占めていたが、最近は「やめろと言われるまでやるのが男の美学」と考える選手が増えてきた。

超ベテランの選手を「レジェンド」と持ち上げる風潮が生まれ、球団側も強く言えない空気になってきた。
昔はスポーツ新聞などメディアは、力が落ちても現役にこだわる選手に対して「往生際が悪い」と批判することもあったが、今はもろ手を挙げて称賛するのみ。
批判の声が全くなくなったことも、超ベテラン選手の居座りを助長したのだろう。

しかしながら、明らかにレギュラーとしてプレーすることはできなくなっているのに「誰もやめろと言わないから」現役を続けるのは正しいことなのだろうか。

どんな野球選手でも殊勲を挙げれば「チームの勝利に貢献できたことがうれしい」という。それによって自己の成績も上がり、年俸にもつながるが「自分の成績が上がって、年俸が上がるのがうれしい」という選手は一人もいない。

それは半ば本心であるはずだ。野球はチームスポーツだ。チームスポーツにおいて利己的な選手は尊敬されないし、そもそも存在を許されない。
「チームへの貢献」と「自らの利益」が、同じ方向性であること。つまりチームと自分の利害が一致しているから、選手はプレーできるのだ。

しかし超ベテラン選手は、明らかにプレーでチームに貢献できなくなっている。しかしそれでも現役に固執している。
心中には「記録をクリアして野球史に残したい」「引退後の生活が想像できないから時間稼ぎをしたい」などの利己的な思いが渦巻いているのではないか。チームと個人の利害が相反し始めているのではないか。

選手の出処進退は本人次第ではある。
しかし、選手のパフォーマンスがチームに貢献していないレベルに落ちてしまったら、身を引くのが筋ではないのか。
誰も何も言わないのをいいことに、現役を続行する姿はエゴそのものではないのか。
いつのまにか野球少年は、エゴの塊、モンスターになってしまったのではないのか。

イチローはオリックスの宮内義彦オーナーとの会食で「51歳まで現役を続けたい」と言ったそうだ。1973年10月生まれのイチローは、2024年まであと8年現役を続ける積りだと云う。
それもよいだろう。ただし、それはチームに貢献し、少なくともチームに迷惑をかけないプレーをすることが大前提だ。

そもそもMLBではシーズンが終了すると長期契約を結んでいない選手は全員自動的にFAになる。「何歳までプレーする」といくら言いつのっても市場価値がなければそれはかなわない。
今回のイチローの契約は極めて異例だ。

リッキー・ヘンダーソンやフリオ・フランコなど何歳になっても現役にこだわる選手もいるにはいるが、彼らは現役を続行するために野球のレベルを落とした。
MLBではなくNPBやKBOやCPBL、さらには独立リーグ。そこまで身分を落としてでもやるというのなら、それは一つの挑戦だろう。個人的な夢の追求として認めてもよいと思う。

そうではなく、1割しか打てない選手がのうのうとMLBで現役続行を表明するとすれば、それは醜悪でしかない。
そうなってほしくない。私は切に願う。



長嶋茂雄安打あれこれ

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