今回のオリンピックの野球・ソフト決定で複雑な思いをしているのは、女子硬式野球界だろう。


オリンピックの競技種目としては「野球系」の競技として男子は硬式野球、女子はソフトボールが選ばれているのだ。
2つの競技は確かにルールはよく似ているし、そのルーツは同一だが、厳密には別の競技だ。

ソフトボールもアメリカ発祥だが、狭いスペースで、女性や老人が「野球系スポーツ」を楽しむために考案された。1887年誕生とされるから歴史は古い。
しかし、ソフトボールは硬式野球を補完するものではなく、別個のスポーツだ。
女子だけでなく男子のソフトボールもある。今回の決定に、男子のソフトボール界も複雑ではあろう。

男子の硬式野球と女子のソフトボールが1セットになったのは、ごく最近のことだ。
野球が五輪の公開競技になったのが1984年のロス五輪、92年バルセロナ五輪から正式競技になるが、女子ソフトボールが正式競技になったのは96年アトランタ五輪から。当初は1回限定とされたが、その後も2008年北京五輪まで続けられた。
そして2012年ロンドン五輪で男子の野球とともに五輪競技から除外された。

この過程を経て「男子野球と女子ソフト」が1セットになっていったのだろう。

確かに1990年代には、女子硬式野球はまだ競技人口も非常に少なく、マイナースポーツに過ぎなかった。日米ともに過去に女子プロ野球があったが、これも消滅していた。
21世紀に入って、急速に女子硬式野球の機運が高まり、高校、大学、そしてプロ野球も生まれたのだ。

後から出てきた女子野球が、男子野球とソフトに割り込むのは難しいとは思うが、女子硬式野球は球場のサイズ以外は男子硬式野球と全く同じである。内容的にはこちらのほうが「正統」であるのは間違いない。
今のソフトボールの選手の中には「本当は野球がやりたかったが女子は参加できなかったので、ソフトにした」という人がたくさんいる。ソフトは女子にとって「野球の代替品」という性格も強いのだ。

もちろん「ソフトをやめて女子野球を競技種目にしてくれ」ということはできない。しかし野球界は五輪決定の余得を女子にも回すべきではないかと思う。

野球界は多くの点でサッカー界に後れを取っているが、とりわけ「女子の取り込み」という点では大きな差がある。
Jリーグは長い間「女子チームの育成」に予算を振り分け、プロチームも育成した。その結果「なでしこジャパン」という大きな成果も生んだ。男子中心のスポーツ界が「人類のもう片方の半分」を取り込むのは非常に重要なのだ。

しかし野球界にその意識は乏しい。高野連は八田会長が「女子はマネージャーとボールガールだけ」と言ったように、野球部員に女子を入れておきながら、女子に野球をさせていない。女子の硬式野球は高野連に入っていない。
もちろん、甲子園は女人禁制という中性的頑迷さを持つ高野連に開明さを求めるほうがおかしいのかもしれないが。

無駄だと思うが、言っておきたい。
「今回の五輪競技化の喜びを、女子野球界とも分かち合ってほしい。公開競技で女子硬式野球をするなど、何らかの余得を女子野球にもまわしてほしい」

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