もうちょっとだけ3000本安打の余韻に浸ろう。

イチローは、偉大な数字を残しただけでなく、見ていて楽しい選手だった。

まずは左打席でのルーティン、体を弓のようにしならせて打席に入り、素振りをくれる。バットを投手の方に向けたのちに、肩越しに投手を見る形で構える。
ここからは自在。どんなコースに来た球にも対応可能。私はイチローが低めの球を料理するのを見るのが好きだった。外角低めの明らかなボール球に、投げ出すようにバットを当てて、左翼への安打を打つ。腰が泳いでいるように見えるが、ビデオでみると、ぴたっと決まっている。自分はバットにボールを当てるだけ。あとはバットが仕事をしてくれる、と言わんばかりの軽やかな打撃だった。

高めの球に思い切ってくらいついてホームランにするのも見ごたえがあった。少し飛びつくように伸びあがってスイングをする。明らかに狙ってスイングをしていた。

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バントのひらめきも楽しかった。イチローはバットを構え、瞬時にバントの体勢に移る。気配を感じさせない。水平に構えられたバットから人のいない方向にゴロが転がる。イチローのバントはあまり打球が死なない。それなりに転がるが、その場所が絶妙だ。だからイチローのバントヒットは、まぐれという感じがしない。
また、バントをした次の一歩が速い。2、3歩でトップスピードになって一気に駆け抜ける。その気持ちよさ。

走塁は速いだけでなく、うまかった。膝に左手をつき、右手をだらりと降ろした構えから突然走り出す。きわどいタイミングでも、鋭いスライディングでセーフになった。
三盗は、投手の一瞬の間を奪う。
1回表、安打で出塁し、二盗、三盗を連続でキメて、二番打者の内野ゴロで生還、まさにイチローファンがしびれる瞬間だった。

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しかし、一番好きだったのは(過去形で言うのはいかんけど)、外野守備だった。
イチローは外野守備に就いている間、絶えず体を動かすのだ。おそらくは、これが怪我をしない秘訣だろう。
屈伸をしたり、両腕の腱を伸ばしたり、膝を回したりしている。そうしながら目はバッターボックスを見ている。
優秀な外野手が例外なくそうであるように、イチローは打球音を聞くとともに落下点に向けて駆け出している。そして多くは駆け抜けながら飛球をキャッチする。スピード感が常人とは違うのだろう。
ホームランキャッチもイチローにとっては「フェンスが無ければ当然取っていたはずの打球を取った」に過ぎないのではないか。
必ず足から行くスライディングキャッチもゆとりがあった。

そしてレーザービーム。最近は外野からの補殺を何でもかんでもレーザービームと言うようになったが、本当は違うはずだ。
単なる補殺は、遠投である。落下点の見当をつけて、そこにピタッと収まるように射出角をつけて球を投げる。
1996年8月の甲子園、熊本工、松山商の試合での奇跡のバックホームがその典型だ。確かにこのプレーにも強肩が必要だが、レーザービームとは根本的に違う。

レーザービームとは遊撃手や三塁手が走者を一塁で殺すのと同じような送球で、外野手が走者を殺す時に使う。直線的な送球を100m以上投げることができる稀有の「鉄砲肩」にして初めて可能。
右翼から矢のような送球を三塁手のグラブに叩き込んだイチローの補殺こそがレーザービームだった。
昨日も書いたが、私はグリーンスタジアム神戸でオリックス時代のイチローのレーザービームを右翼席から見たことがある。反動つけて投げ込むその送球は、まさに糸を引くようだった。観客席が一瞬静まり返った。これは本当にしびれた。

今も好返球を見せることがあるが、残念ながら今のイチローは「遠投」だと思う。

こうしたプレーを目の奥、心の底にたくさん焼き付けることができた。これ以上、彼に何を求めることがあるだろう。

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1979年山田久志、全登板成績【3年ぶりの20勝到達も、チームはV5ならず】

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