同じ「先発投手のパフォーマンス」であり、ともに拍手喝さいを得たが、二つの試合は天と地ほども価値が違った。


9月28日の西武、日本ハム戦
22歳の大谷翔平は、先発して9回を投げ1安打完封した。奪三振は15個。四球は1個。

9月29日のDeNA、ヤクルト戦
42歳の三浦大輔は、先発して6.1回を投げ被安打12、自責点10。奪三振は8個、四球は3個で敗戦投手になった。

大谷の勝利は、単なる1勝ではなく、4月から戦ってきたペナントレースに決着をつける勝利だった。日本ハムはソフトバンクと最大11.5ゲームの大差をつけられていたが、驚異的な追い上げで、最強チームを屠った。
大谷は打者として驚異的な活躍をするとともに、投手としても重要な場面で快投を見せてきた。
28日の試合は、そんな日本ハム、大谷翔平の集大成ともいうべき試合であり、大一番に期待にたがわぬ活躍を見せてくれたのだ。

三浦の敗戦は、単なる1敗以下の価値しかなかった。この試合は、三浦に預けられたのであり、どんな投球をしてもかまわなかった。すでにペナントレースは決し、DeNAは勝とうが負けようが、状況は変わらない。
三浦は今季3試合目の登板。過去に同じチームで172勝を揚げてはいたが、今季はここまで2敗、全く戦力になっていなかった。その上に、すでに引退を表明していた。
三浦は1回、坂口、川端に連打を浴びる。山田は併殺に打ち取ったが、2回には新人の廣岡に本塁打を浴びる。以後も6回までに10失点。目も当てられないマウンドだった。
本来であれば「金返せ」と言われても仕方がないような凡戦だった。

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しかし日本の野球ファンは大谷翔平にも、三浦大輔にも大きな拍手と歓声を与えた。その意味するものは全く違うが、同じように称賛したのだ。

大谷に対して与えられた賞賛は、まさに大谷の驚異的なパフォーマンスに対するものであり、その長い四肢の躍動に対する感嘆の声の集積だった。

三浦への賞賛は25年の長きにわたって大洋、横浜、DeNAで活躍した老投手へのねぎらいの声だった。試合はどうでもよかった。ただ目の前で投げる格好だけすればよかったのだ。
その程度の目的のために、公式戦を一つ無駄にした。
三浦の生涯防御率は、この試合前は3.575だったが、6回を投げて自責点10だったために3.596まで落ちた。
しかし、公式戦も、通算記録も「どうでもよかった」のだ。
ただただ「三浦が引退する」ことへの感傷に浸るために人々は集まり、予定調和的に称賛の声を上げたのだ。
「茶番」とは「底の見えすいた、下手な芝居。ばかげた振る舞い」のこと。昨夜はまさに「茶番」が行われたのだ。

28日の西武ドームの日ハム戦には28261人が駆け付けたが、29日のハマスタのヤクルト戦にも28966人が詰めかけた。
DeNAの営業にしてみれば、完全な消化試合にこれだけの観客動員をしたのだから、万々歳である。三浦大輔グッズも売れたことだろう。
これからは、引退する選手が出るたびに、公式戦を「茶番」にしようと思ったに違いない。ビジネスに敏い他球団の営業も、どんどん「茶番」を導入するだろう。そしてもっと「茶番」にするチャンスはないか、考えを巡らせるはずである。

公式戦や記録を大事にしないというのは、「野球」を大事にしないことである。こういう風潮を私は嘆かわしいと思う。



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