野球に比べて後発のサッカーでは、「世界で勝つ」ことは、日本での普及を行う上で必須の条件だった。


Jリーグの発足時に、サッカーは「ワールドカップ出場」を目標に設定した。それは90年代前半の時点では「夢」のような目標ではあったが、98年のフランス大会出場を果たし、これがサッカー人気を押し上げるうえで大きな役割を果たした。サッカーは「日本の先に世界」があることを提示することで、メジャースポーツ化したのだ。

ドメスティックなスポーツとして発展してきた野球は、「日米決戦が目標」としてはいたが、実際にその気運は全くなかった。外国人選手はNPBにとって不可欠の存在だったが、それは国際化とは無関係だった。
日本人がMLBの存在に初めて気が付いたのは1977年、フジTVの「大リーグ中継」だった。そこから徐々に知られてはいったが、日本人がMLBに挑戦する日が来るとはほとんどの人が思っていなかった。

1995年2月、近鉄のエース野茂英雄がロサンゼルス・ドジャースとマイナー契約、この年MLBの新人王に輝くに及んで、事態は一気に変わった。
NPBの選手は、日本の野球の「その先」にMLBという目標ができたことを知った。野球ファンもMLBを「手が届くところにある」と認識した。野茂の壮挙は日本野球の蒙を啓いた。天井が開いて青空がのぞいたような開放感をもたらした。
翌年以降、多くの投手がMLBに移籍。2001年にイチローが野手として初めて海を渡ると、野手もこれに追随した。
野球少年の夢が「プロ野球選手」から「大リーグ選手」へと変わったのもこのころだ。

この間にオリンピックで野球が正式競技になり、プロも含めた「野球日本代表」が、世界の強豪と戦うようになった。

WBCはそういう「国際化」の機運の中で始まった。その運営や対戦方式には、大いに問題があったが、プロ選手が参加する本格的な「ワールドカップ」だった。ヨーロッパやアフリカなどの野球に触れることも新鮮だった(実態はアメリカ在住の選手が主体だったが)。
この大会で日本が連覇したことで、日本国内の「国際化機運」は最高潮に達した。

野球は日本国内、NPBで完結するものではない。選手にはその先にMLBがあるし、日本野球にも世界の舞台がある。多くの野球ファンが、その認識を持つに至った。

張本勲、野村克也、江本孟紀などはMLBに行く選手を「恩知らず」と決めつけ、NPBに残るべきだと主張した。また「MLBは大したことがない」と断じたが、国際化とそれに伴うNPBの相対的な地位の低下は不可避だと思われた。

こうした国際化の流れに変化が起こったのはここ数年のことだ。
まず、日本の野手が、イチローや松井秀喜を除いてMLBではほとんど通用しないことが露呈した。
NPBのトップクラスの投手はいまだに評価が高いが、MLB側のNPB選手に対する視線は、冷静なものに変わった。
またNPB側も、年俸が高騰して抱えきれない投手は別にして、野手など他の選手のMLB挑戦を認めないようになった。

そしてWBCが「ワールドカップ」というには様々な問題があることも露呈した。とりわけ主催者であるMLBにとってWBCは、経済的にもイメージ的にもメリットをもたらさないことが明らかになった。
発案者であるバド・セリグコミッショナーの退任もあって、WBC廃止の機運が出てきたということだろう。

これはNPBにとっては深刻な事態である。
実態はお寒いものであったにせよ「日本の先に世界がある」というイメージは、野球の将来性、可能性を明るいものに見せてきた。
TBSなどは野球中継で「2013WBC代表」などの触れ込みで選手を紹介してきた。それは「国際クラスの選手」という箔付であり、「世界」を意識させるものだった。
「侍ジャパン」は、12球団に横串を刺す13番目の球団であり、単なる「日本代表」ではなく、NPB、野球界改革の「希望の星」だった。
WBCがなくなることは、「侍ジャパン」の存在意義がなくなることに等しい。

2017年のWBCのあと、2019年には日本主催による「プレミア12」がある。五輪の予選だ。そして2020年には東京五輪で6か国による野球競技が行われる。

NPB、日本の野球界は、この間に自分たちの力で「次の一手」を打たなければならない。五輪の野球競技はおそらく1回限りだ。
何も手を打たなければ「野球の国際化」は、以後白紙に戻る。
それは老人たちにとっては「NPBの原点回帰」に見えるかもしれないが、野球少年にとっては幻滅である。
あらゆるものの国際化が進む中で、NPBがドメスティックな存在に戻るということは、「衰退」以外の何物でもない。

JPN




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