一昨年のこの時期は大変だった。黒田博樹の広島への電撃復帰が報じられて、当サイトは総攻撃されたのだ。

私は、黒田に対し、毎年広島球団が、彼の現状の年俸よりもはるかに低い年俸を提示して「帰ってきてくれ」と言っているのに対し、「失礼で、厚かましい」と言い続けてきた。
それは、今も間違いではないと思っている。

確かに黒田博樹は「金のために投げる」投手ではなかったようだ。海外FAを宣言した時も、「できれば残留したい」という意向があったようだが、球団の懐事情や、他の選手との軋轢もあって、退団せざるを得なかった。
海外に渡ったのも「広島と対戦したくなかった」からだという。

その辺の事情は理解できるが、だからと言って、MLBで成功している黒田に「収入を半分以下にしてでも戻ってきてくれ」ということが正当化されるとは言えない。
黒田自身に「そういう気持ち」があったことは、後になって分かったが、それは極めて特殊で、個別な事情だということだ。

私が危惧したのは、この話が「美談」になることだ。世の中には「お金ではなく、他の何か」のために生きる人は存在する。
しかし、それはその人に特殊な事情が伴えばこそだ。誰しもが同じことはできない。多くの人は「お金のために」生きている。お金があれば生活できるし、一般的には幸せにもなれる。もちろん、お金があるだけでは十全ではないが、だからと言ってお金を否定することはできない。
特殊事情で「お金ではない」選択をした人を「この人を見よ」と持ち上げるのは、時として危険な同調圧を生む。

野球界という「上下関係」が厳しい、旧弊な社会では「この人を見よ」は、「この人のようにせよ」という圧力を生みかねない。
2年前、張本勲は「みんな黒田を見習ってほしいね」と言った。張本勲や野村克也は、今の野球界の「MLB志向」に不快感をもっている。自分たちの記録が色あせるからだろうが、そういう人たちにとって「MLBを捨ててNPBを選んだ」黒田の選択は、心地よいものに映ったのだろう。
自分たちは現役時代「お金」を得るためにどんよくに働いたに違いないが、黒田の「金ではない」選択を賛美したのだ。
危険なことだと思った。
幸いなことに、後追いをする選手は出ていない。そういう選手が出ないことを祈りたい。

黒田は引退後の生活を日本ではなく、アメリカでスタートした。「男気」のストーリーからいえば、広島の真ん中に居を構えて、後輩たちを叱咤激励すべきだが、そうはしなかった。
黒田自身の選択が、世の中の「期待感」とは少し違うことを意味しているのだと思う。

私がその頃出した本のアマゾンの書評にはこんなのが載った。

まずは著者名で検索をかけましょう。するとあら不思議、購入意欲がたちどころに消えてしまいます。あ、「黒田 失礼」で検索してもよろしいでしょう。

日本人の一面を見た思いがした。

黒田は、自分の行動がどんな反響を与えるのかについては、やや無頓着だったように思う。今年、引退を発表したタイミングも、新井貴浩のアドバイスで、日本シリーズ前に変更したようだが、自分がどれほどの大物で、社会にどんな影響力があるかに思いがいたっていなかったと思う。

引退してから、黒田は「男気」についての取材をたくさん受けるに違いない。現役時代の自分が、どんな風に社会から見られているかを知ることになろう。

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