甲子園の功罪の内、「功」の大部分は過去のものであるのに対し、「罪」は、近年になって顕在化したものが多い。
■甲子園、高校野球の「罪」

1)甲子園の「神聖化」
電鉄会社が営利目的で運営するただの野球場であるにもかかわらず「甲子園」は高校野球の聖地、メッカとよばれるようになった。また「甲子園」には、「俳句甲子園」「料理甲子園」のように、高校生が青春をぶつける大舞台の代名詞にもなった。
そのこと自体が「罪」ではないが、甲子園が神聖化されることによって、そのためにあらゆる犠牲を払うことが是認されるようになる。「甲子園で燃え尽きる」ことなどその最たるものだ。たかが高校生の大会で「選手生命が危機に瀕する」ことが容認されることの異常性に、いい年をした大人でさえも気が付かなくなっている。

2)高野連の「権威化」
甲子園の神聖性を背景として、高野連は全国の高校、そしてマスメディアに対して、あたかも「法王」のようにふるまうようになった。
不祥事を起こした高校や指導者、選手は、高野連によって一方的に罰せられる。高野連は不祥事の原因を究明するわけでもなく、そうした状況を改善するわけでもなく、ただ罰するだけである。
また、「行き過ぎた報道」をしたマスメディアには取材パスを渡さないなど権力をふるっている。
愚かな「権威」の常として、社会の動き、時代の変化には全く疎いのも問題だ。「甲子園の伝統」を金科玉条のごとく死守しようとし、カビの生えたような「高校生らしさ」を強要している。

3)マスメディアの「利益相反」
甲子園、高校野球は朝日新聞、毎日新聞によって主催、運営されている。高野連も実質的に新聞社の影響下に運営されている。そのために、メディアは、甲子園、高校野球に対して批判的な記事を書くことができなくなっている。表面的な事件や、事故に対する批判はできても、その背後に高野連、甲子園、高校野球の体質が潜むような事例については、一切口をつぐんでいる。
本来なら、読者に伝えるべきことも、自身に批判の矛先が向きかねないために、伝えなくなっている。甲子園、高校野球の「影」「罪」の部分は、マスメディアががっちりガードを固めているために顕在化しない。
そして甲子園を手放しで賛美する「熱闘甲子園」のような番組を量産している。
新聞と言うメディアは、今、社会から厳しい目が向けられている。それは「伝えるべきこと」ではなく「読者がよみたそうなこと」「伝えても自身にリスクがなさそうなこと」だけを伝えているからだ。みずから変革することができない旧弊な体質は、野球界にも害を及ぼしている。

4)高校野球の「ビジネス化」「利権化」
プロ野球が巨大スポーツになるとともに、甲子園、高校野球からプロ野球へのルートが確立した。このルートの周辺には、これを仲介する「人買い」まがいのブローカーが横行するようになる。指導者の中には契約金のキックバックで財産を築くものさえ現れている。
また、私立高校は売名行為のために「高校野球」を利用するようになる。全国の有望な野球選手をかき集め、無償、あるいは小遣いまで与えて野球をやらせる。甲子園で勝つことが、学校法人にとって有効なビジネスモデルになっている。

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5)野球界全体の発展への「阻害要因」「抵抗勢力」
1)から4)の「罪」は、それぞれが複雑に絡み合って、岩塊のような「壁」を作っている。甲子園が現状のまま存続することで、多くのメリットを得る人々が存在し、そういう人々がスクラムを組んでいるのだ。
しかし、社会が変化し、野球界でも意識変革が進む中で、高校野球の既得権益を死守しようとする人たちは深刻な「抵抗勢力」になっている。
プレイヤーズファーストなど、今のスポーツの潮流も、この「壁」にさえぎられて、野球界には浸透しない。
NPBも旧弊な体質を持ってはいるが、何と言っても営利団体であり、市場が変化し、ニーズが変わればこれに対応せざるを得ない。幹部連中の頭は固いが、機構、球団の現場からは確実に変革の胎動が生まれつつある。
しかしながら甲子園、高校野球は「非営利事業」の建前をとっている。そして自らが無謬であるという建前に立脚している。このために、現実に即して動いたり、時代の要請に応じて柔軟に思考したりすることができない。あたかも「宗教的権威」のように、屹立している。
NPBや大学野球、社会人野球は世の中の動きに応じて、緩やかであっても変革していくと思われるが、甲子園、高校野球は、「壁」そのものを解体しない限り、変革はできないと思われる。

その日が訪れるのは、「野球離れ」が深刻化し、多くの利権やビジネスモデルが成立しなくなるときかもしれない。
存外、その日は近いと思えるのだが。



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