なぜMLBのトッププレイヤーの中でも、ドミニカやオランダの選手はWBCでしゃかりきになって、アメリカの選手はそうではないのか。
制度面でいえば、アメリカ国籍の選手も多国籍の選手も変わりはない。
有名選手は大型契約で球団に縛られている。
球団は本音を言えば、自らの財産であるスター選手が、ペナントレース以外で消耗してほしくない。
怪我や故障で前途を絶たれれば、大損を食らうからだ。

WBCの興行収入はMLBを通じて球団にも分配されるが、それはスター選手の1年分の年俸よりも少ない。微々たるものだ。
MLBの国際化戦略は重々理解してはいるが、それで自分たちの資産が毀損するのは御免蒙りたい。
WBCが盛り上がっていると言っても、アメリカではオープン戦の扱いだから、今後も経済的利得は大きくない。
「やるというなら怪我しない範囲で、ぼちぼちやってくれ」というのが本音だ。

アメリカ国籍の選手も同じような意識でいる。球団の「できればやめておいてくれ、出るなら全力を出さないでくれ」という要請は、自分自身にとっても意味がある。
球数制限や登板間隔を守るだけでなく、ちょっとでも体に変調をきたしたら離脱する気でいる。
彼らは、MLBで活躍し、巨額の富を得ることで、すでにアメリカンドリームをかなえている。これ以上望むものはない。
多くの一般的な、アメリカ人は海外への関心が極めて低いと言われる。価値観をドメスティックに求める点では、MLBの大物選手も同じだ。
アメリカはすでに世界一だ。国内リーグの優勝戦をワールドシリーズと言っていることでもそれがわかる。求めるべき高みはもうないのだ。

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これに対し、ドミニカ、ベネズエラ、プエルトリコなどの有名選手は、大金持ちになっても満たされぬ思いがある。端的に言えばそれは「故郷に錦を飾る」ということだ。たとえ本人がアメリカ生まれであっても、親の世代はアメリカと言う異国で苦労をした。彼らも、自国は別にあるという意識が強い。
「国を背負う」ことへの高揚感は、アメリカ国籍の選手には理解できないほどの高いのだろう。

その上、中米諸国の選手はオフシーズンもウィンターリーグでプレーしている。アメリカ国籍の選手と違って、オフに野球をするのは「普通のこと」なのだ。
MLB球団はウィンターリーグへの参加にも懸念を示しきたが、それを振り切って毎年ウィンターリーグに参加してきた。鍛錬のためだけでなくこれも「故郷に錦」の考えからだ立った。
WBCで頑張るのは不自然なことではない。

母国から出場して「世界一」の称号を得ることは国の名誉になる。さらに無名の同国の同胞とプレーをし、経験を分かち合うことは母国を捨てたことへの免罪符にもなろう。

NPBやKBO、CPBLなどMLB圏外の国のリーグにとっては、WBCは常にアメリカへの挑戦であり、高いモチベーションがある。
ヨーロッパなど野球のマイナー国には、メジャーへのあこがれと野心がある。
そしてMLB圏内の諸国にも、「故郷へ錦」という高いモチベーションがある。

何もないのは本家のアメリカだけだ。その異様さが、今大会で際立てば、それは有意義なことではないだろうか。


『野球雲 vol.8』出版記念 広尾晃さん&松井正さんトークショー&サイン会


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