日米の野球でいろいろ違う部分はあるが、その一つの「審判に対する態度」がある。


アメリカでは、審判は試合の主宰者であり、「絶対的権威」とされる。ミスジャッジがあったとしても、選手や監督が、激しい調子で抗議することは少ない。また、不満げな顔で抗議をすれば、審判はすぐに退場を命する。退場を命じられた選手、監督は不満げな顔を見せながらも、黙って指示に従う。

しかし日本では、審判の権威は非常に低い。常に監督や選手の恫喝にさらされる。不満があれば、彼らは怖い顔をして、審判に抗議をする。多くは執拗であり、審判に対するリスペクトの念はみじんも感じられない。挙句に退場を命じられても、記者団などに不満の声を漏らすことが多い。

一昨日、広島の緒方監督がジャッジに怒って一塁審判に抗議をし、選手、指導者生活を通じて初めての退場処分を食らった。審判からは「抗議を超える暴言があった」と言う説明があった。
この話、サンデーモーニングの件の人物は
「感情的になる人じゃない。それがあれだけ激怒するということは見てわかる。私は日本のアンパイアは世界一とずっといってきたが、ここ2年ぐらいで下手になった。勉強してもらいたい」
と語った。一応、審判を評価する言葉を添えたのは、珍しく良かったと思うが、2年間で下手になったという、根拠不明の話をしたのは例によって例のごとしだ。

日本の野球人は、審判は「野球選手の成りそこない」がなるものだと思っている。
野球界は年功序列と実績の2つの指標しかない。選手時代の実績がない審判、若い審判には、監督やベテラン選手はあからさまに馬鹿にしたような態度で接する。

しかし、これは自分たちが参加している「試合の権威」を損なう行為だ。試合の途中でジャッジに疑義を呈するのは、試合の正統性に疑問を投げかけていることに他ならない。

そして彼らは「正しいジャッジをしてほしい」と言って抗議をしているのではないのだ。「自分に不利なジャッジをされたから」抗議をしているのだ。

例えば自軍の選手がアウトだと思えたプレーで「セーフ」を宣されたときでも、「アウトじゃないのか」と抗議に行くのなら、「ちゃんとジャッジをしてほしい」という要望は正当性を帯びるだろう。
しかし、味方に有利に働く「疑問のジャッジ」には知らぬ顔をして、不利な判定にのみ抗議をするのなら、その抗議者は「俺たちに有利な判定をしろ」と強要していることになる。そこに正義はない。

一度下された判定に強硬に抗議をするのは、子供に見せたくない姿だ。勝つためには、審判を怒鳴りつけてもいいと教えているようなものである。
「野球が嫌」という親、子供が増えていることの一因に、こうした審判への礼節に欠けた態度も含まれている。

日本の野球は「勝利至上主義」に凝り固まっている。勝つためには何をしてもいいと信じられている。
審判に暴言を吐いても認められると思われている。
「俺たちは、試合に命を懸けているんだ」みたいなことを言う指導者もいる。「命を懸けている」と言う言葉が職業倫理のことを言っているのだとすれば、それは当然のことであり、審判もそのはずだ。ことさらに言うべき必要もない。

おかしなジャッジがあっても、監督や選手は自制心をもって抗議をするにとどめ、すぐに試合に戻る。これを徹底すべきだ。
疑問に思える判定があったのなら、球団から連盟に対して抗議をする。そこに感情的な問題が入り込まないようにするべきだと思う。

確かに審判には実力に優劣があるのは、先日数字で示した通りだ。審判部は、審判の内容によって評価されるべきだ。序列、待遇に差をつけるのは当然だ。
しかし、それは「抗議を受けたから」ではなく、審判部の独自の判断によるべきだ。「審判の権威」を損なわないために人事は行われるべきだ。

1997年、審判技術の向上のため、人事交流制度で日本にやってきたアメリカ人審判のマイク・ディミューロは、ストライク、ボールのジャッジをめぐって当時の中日、星野仙一監督に暴力を受けた。ディミューロ審判は、ショックを受けて辞任し、帰国した。
この話はNPB史上でも最も恥ずかしいエピソードの一つだと思う。以後、MLBとNPBの審判の人事交流は行われていない。

審判を侮辱し、あまつさえ暴力をふるうのは、自分たちがやっている「プロ野球」と言うゲームを貶めている行為に他ならない。なぜ、このことが日本では理解されないのか。

最近、MLBではビデオ判定がいろいろなプレーに導入されている。私はそれに疑問を感じるが、しかしそれは審判の権威を担保する前提で導入されている。
日本では審判がダメだから、ビデオ判定を導入したり、AIなどが審判をすべきだという論調があるが、それとアメリカの事例とは本質的に違う話だということは認識すべきだ。

人間のやることである。野手がエラーをするように、投手は失投をするように、審判もミスジャッジをする。日本人はミスを責めるのが好きな人種だと言われるが、それは何も生まない後ろ向きの行為だ。
ミスも含めて、含めて「野球」だということを改めて認識すべきだ。

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