この本は、いろんな読み方ができる。面白い読み物であるとともに、驚きの事実を教えてくれる。極めて重要な本だ。今日は、3回に分けて語る。
まず、この本は「マネーボール」以来、一番面白い「野球の物語」である。

著者ジェフ・パッサンは、ネットが中心のスポーツライターだが、トミー・ジョン手術の全貌について知るべく4年前に取材を開始した。
いくつもの綿密な取材が織物のように巧みに織り込まれて物語が進行するのだが、主役と言えるのはダニエル・ハドソン、トッド・コッフィーという二人の投手だ。
二人とも現役。
ハドソンは1987年生まれ。トッド・コッフィーは、1980年生まれ。ハドソンは先発、コッフィーは救援投手。
ともに、2度目のトミー・ジョン手術を経験し、再起を期している。

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1度目の手術のあと、復帰を目指すリハビリ登板の最中に、二人ともUCL(“Ulnar Collateral Ligament” 内側側副靭帯)を再び断裂し、2回目の手術を受けるに至った。

1年以上をかけて一歩一歩上り詰めてようやく光明が見えた矢先の二度目の断裂。その残酷な現実に、二人は悲嘆にくれる。
慰める家族、そして、チームメイト、球団、医師たち。
これだけでもドラマになりそうだ。

英語の文章についてはわからないが、翻訳が素晴らしい。野球翻訳の名作をたくさんものにしている棚橋志行さんだから当然だが、その細やかな描写と、そこはかとないユーモアは、原作者のなみなみならぬ筆力をも反映していると思う。

2度目の手術の後、ふたりは本来の投球ができるまでに回復した。しかし、二人の運命は明暗を分けるのだ。
MLBという「市場」のシビアさをリアルに感じる。

筆者は二人の投手に寄り添い、なんでも話ができる関係にまでなっている。相談されるまでに信頼されるに至ったが、それでもペンは客観性を失わない。

「マネーボール」がそうだったように、人間臭い物語として十分に面白い。二人の男の挫折とカムバックの物語として、まずお勧めする。


先発投手の白星がついたのは何試合目?

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