応援団は、誰かがプロデュースしているわけではなく、自然発生的に起こり、進化していく。
最初はささやかなものから始まり、だんだんエスカレートしていく。
私が十代のころのプロ野球にも応援団はいた。一塁側の内野の中段あたりで、笛を持ったおっさんが、観客席の方を向いて「今日もよろしくお願いしまーす」と言って「ふれ、ふれ」とやるような感じだった。観客はそれほど熱心ではなかったが、一応手拍子などをしていた。私は当時の応援団で鉦を叩いていたことがある。うら寂しいものだった。
三塁側、ロードチームは応援団はいないか、いても数人だった。関西ではロッテの応援団に奇声を上げる兄ちゃんがいて「親泣いてるぞー」と野次が飛んだりした。
甲子園や後楽園は、パの球場よりもたくさん人が入っていたが、応援団は少数派で、球場のざわめきの中から聞こえてくる程度だった。
率直に言って、応援団は「けったいな人たち」だったのだ。

前も言ったが、応援が派手になったのは1985年の阪神の優勝くらいからだろう。
ちょうどバブルの時期にもあたり、世の中がちゃらちゃらし始めたころでもあった。ディスコやカラオケが始まり、おとなしく見ているよりも、自分も参加して騒ぐ方がいい、という風潮も生れていたのだろう。
野球場へ行く目的が、「野球を見る」から「野球をダシに騒ぐ」に変わっていったと思う。
でも、それはちょっと格好悪いので「一生懸命応援している」と人にも言い、自分にも言い聞かせるような人が増えてきたのではないか。

2000年だったと思うが、長嶋茂雄が「球音を楽しむ日」を提唱した。実施したのは西武ライオンズだった。一部には評判が良かったが、このあと行われることはなかった。
「野球をダシに騒ぐ」人にとっては、行く目的が失われるのだから、当然のことだろう。

ある時期まではNPB球団は、こうした応援団に対して規制をしたり、悪質な応援団を締め出したりしていた。「一般のお客に対して迷惑だ」と言う認識からだった。

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しかし21世紀に入ると球団側が応援団に迎合し始める。場内の演出が応援団と連動する。「ジェット風船」や応援グッズも販売するようになる。この時期、球団はこれまで少数派だと思われていた「野球をダシに騒ぐ」人をメインの顧客だと認識したのだ。
バレンタイン監督をめぐって千葉ロッテ球団と応援団がもめたり、中日が反社会勢力とつながっている応援団を解散させたりする事件もあったが、今では球団が応援団と一体化して新しいイベントや、演出を考えている。

応援団は、どこかが派手な演出をしているとそれを真似することが多い。トランペット、ジェット風船、タオル廻し、ジャンプなどなど、様々な演出が生まれた。
そういうものは「足し算」となって、どんどん応援を派手なものにしていく。ラーメン屋の味付けがどんどん濃くなっていくのと同じで、不可逆的に演出過剰になっていくのだ。

日本の野球にはもともと「静かに野球を見る」スタイルが根付いていた。だから、まだそういう片りんは残っている。
甲子園のように応援団が高野連から厳しく規制され、エリアも表現も管理されている試合では、バックネット裏にはまだ「野球を楽しむ」人々が座っている。敵味方なしに好プレーに拍手を送るような人だ。
NPBでも応援団席は一応、決まっているので、うるさくはあるが「応援に同調しない自由」は辛うじて保たれているように思う。

しかし、台湾や韓国では、野球観戦のスタイルが根付く前に日本流の派手な応援が入ってきたため、球場は「応援一色」になっている。球団は「専属応援団」を選手と同様雇い入れて、拡声器を使って大騒ぎでがなり立てる。
台湾や韓国では、試合観戦とは、ほとんど「野球をダシに騒ぐ」ことになってしまっているのだ。耳をつんざくような大音量が響き、グランドの選手が取り残されているように感じることさえある。

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最近、ファンになった人々は台湾や韓国のファンと同様、「野球観戦」とは「騒ぐことだ」と思っていることだろう。

誰もコントロールしていない自然発生的なイベントは、参加者が増えるとともにどんどんエスカレートしていく。
元は地域の民謡、舞踊だった「よさこい」が今では、暴走族の集会かと思うような派手派手なものになっているのと同じだ。

誰もがやりすぎ、と思うようになっても、エスカレートは止まらない。止める動機が見当たらないからだ。

これ、やる人間の自由かもしれないが、看過できない。野球や選手を置き去りにして、勝手な方向にエネルギーが噴出し、暴走していくように思うからだ。

少なくとも当サイトを見に来られるような人は、「野球場にはいったい何のために行くのか?」を改めて考える必要があると思う。



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