Jリーグが始まったのは1993年5月15日だった。この日の夜、私は宮崎から臨月近い奥さんが待つ大阪に帰る途中だった。ANAの機内モニターでこのニュースを目にしたのを覚えている。
私の関心は、主として新しいロゴマークに向いていた。豊島園の一連の広告など、当時広告界で次々と凄い作品を発表していた大貫卓也が手がけていたからだ。
大貫が参画しているのだから、これは凄いことに違いないとは思った。確かにオープニングイベントの華々しさは異例に思えた。

私はヤンマーに知人の親がいた関係で、サッカーの日本リーグを見たことがある。釜本以下の選手の寄せ書きのサインももっているが、試合そのものは地味で、客席もガラガラ、何が面白いのかと思ったことがある。

イメージ的にはサッカーは男子バレーよりも下、野球や大相撲の足元にも及ばないと思っていたから、そのプロリーグの開幕に、世間が大きな注目を寄せ、スポーツニュースが大々的に取り上げるのが、なぜなのか全くわからなかった。その時点で私は時代に後れを取っていたのだが。

60b51a0d24e821326570edc0af08dfcd_s


Jリーグの開幕によって、サッカーブームが到来した。カズこと三浦知良は一躍売れっ子になったし、若者のファッションも変わった。

そして「ドーハの悲劇」を経て日本がワールドカップに初出場すると、さらに大きなサッカーブームが到来した。
この頃、Numberのワールドカップの特集号をたくさん買った。今も本棚に並んでいる。本戦は全試合をビデオで録画した。VHSは場所をとって仕方がないが、確か2010年くらいまでは全部揃っている。
ワールドカップには夢中になったのだ。
しかしそれは「世界で日本人選手が戦っている」ことへの関心だった。Jリーグの試合はセレッソ大阪の試合を中心に何試合か見たが、面白かったという記憶はない。
かなり積極的にサッカーにかかわろうとし、それなりにお金もかけたが、正直言ってサッカーを好きになることはなかった。

ded3855052d7f090d8f00b374fcc6f22_s


野球とサッカーを比較してどうのこうの、という話になると「ご冗談でしょ」という感じだ。

人が何かを好きになり、夢中になる過程は人それぞれだろうが、30代半ばになって新しく見るようになったスポーツと、物心ついたころからなじんでいたスポーツでは、入れ込み方が全く違う。
野球はルールやプレーだけでなく、その考え方、野球的な身のこなし方=野球しぐさも私の体に染みついている。その点、サッカーは私の心身には何も入り込んでいない。

Jリーグの取材もいろいろやっている。そのマネジメントやビジネスモデルは素晴らしいと思うが、愛着が湧いたりはしない。

サッカーだけではない。私より若い人は、ゲームに対してスポーツ観戦と同じような歴史を持ち、思い入れがあると思うが、私には何の愛着もない。「ゼルダの伝説」のごく初期のバージョンにほんの少し夢中になったことがあるが、膨大な時間が無駄になることに驚いてやめてしまった。それっきりだ。ゲームを漫画や文学と並ぶ文化だとはとても思えない。個人的には時間の無駄以外の何物でもないといまだに思っている。

年代が違えば、スポーツ、文化の享受の内容は大きく異なる。
30代の人には野球とサッカーは同じウェイトで入り込んできたのではないか。それより下の人は、あるいはサッカーの方が大きかったかもしれない。
私より上の世代で、サッカー経験がある人以外でJリーグのことを話す人は極めてまれではないかと思う。Jリーグが開幕した時点で大人になっていた人にとって、サッカーは他人事のままだろうと思う。

反対に言えば、サッカーや他の色に染まって育った人を大人になってから野球色に染めるのは至難の業だということだ。ほとんど絶望的なのだ。

1993年を境に、日本のスポーツ好きの人の心を染めるインクの色は徐々に変化してきたのだ。これまで「野球一色」だったものが、サッカー色が強くなり、今はこれに他の様々な色も交じるようになっている。

このトレンドはどんどん進む。野球の色はますます色褪せるだろう。

多くの人が気付き始めているが、野球界は、長い時間をかけて、気長に幼児を野球色に染め直していかねばならない。活路はそれしかない。

IMG_7254



長池徳士、全本塁打一覧(後編・1972~1979、その他)|本塁打大全

私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください!

好評発売中!