清宮幸太郎をめぐる状況の異常さに、気が付かないリテラシーの低い読者がたくさんいることは残念だ。
清宮騒動は、従来の高校野球報道を大きく逸脱している。

まず、今報じられている競技、試合のレベルの低さだ。
清宮の本塁打は高校の試合で記録された。菅野智之や金子千尋から打ったのではなく、高校生相手の非公式戦が大部分で、しかも大きく実力の劣る投手とも対戦する中で記録されたものだ。
全国の選り抜きの選手が集まる甲子園での本塁打は2本に過ぎない。確かに、それでも将来への期待感を抱かせるには十分だが、記録というにはあまりにも低レベルで、いい加減だ。
しかしメディアは、練習試合に報道陣を派遣し、速報でこれを報じた。たかが高校生同士の練習試合を、あたかもイチローの3000本を追いかける如く報じたのだ。こんなことはかつてなかった。その欺瞞性が前提としてある。

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さらに、特定の高校生にヒーローインタビューをするのも前代未聞だ。
甲子園では、監督にNHK、主将に民放が代表インタビューをすることになっている。個別にマイクを向けることは許されない。そこでは試合について聞くのが原則だ。清宮は主将だから、甲子園でマイクを向けられることはあるが、それは「強打者、人気者清宮」への質問ではなく、「主将清宮」に対するものだ。自分の打撃についてとうとうと話すことなどありえない。
しかし練習試合は、公式戦ではないから、高野連は関与しない。なんでもありの状況で、あたかもプロ野球選手に対するような質問が投げかけられ、清宮もプロ選手気取りで答えたのだ。前代未聞だ。この異様さになぜ気が付かないのか?

高野連の問題は根が深い。
世の中が変わり、スポーツの概念も変化する中で、歴史、伝統をたてに、変革を拒否する姿勢は、野球衰退の大きな原因になっている。商業主義を排除すると言いながら、その実様々なビジネスを生んでいる実態とともに嘆かわしい限りだが、少なくともメディアから高校生を守ろうとする姿勢はある。メディアが劣化し、売れるものなら何でも商売にしようとしている中で、高校生に軽々しく発言をさせず、ガードしていることは評価できる。

今回の騒動は、高野連の目が届かないところで起きているのだ。

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今のメディアは常に新しい話題、新しい「注目の人物」を求めている。中身はどうでもいいのだ。
ただ「若い」「女性」「美人」「イケメン」「二世」「外国人」などはっきりした属性があって、それに何らかのファクトが付けばお話は作りやすい。ファクトにはネガティブな場合も、ポジティブな場合もある。
ワイドショーでは対象人物の来歴や係累、私生活が微に入り細にわたり報じられる。視聴者はそれを「他人事」として消費するのである。私もその一人だが「豚のようだ」と感じ、嫌悪感に陥ることがある。
ポジティブ報道がネガティブ報道になることもある。メディアにとってそれは「一粒で二度おいしい」ことだから、大歓迎である。

メディアは、何の責任も取らない。過剰な報道で対象人物が精神的におかしくなったり、私生活やキャリアに傷がついたとしても、彼らが謝罪をすることはない。
昔は未成年には、それなりの配慮があったが、今はそれもない。

ネガティブな場合はもちろんだが、ポジティブ報道でも、対象者は何らかのダメージをこうむる。
未成年の場合ならなおさらだ。
周囲の大人、学校は、そういう子供をガードし、ダメージを軽減する責任がある。

そもそも野球はチームスポーツだ。一人だけがヒーローになり、異様な注目をされることはチームワークに悪影響を与える可能性が高い。練習試合では、他にも好プレーをした選手も、本塁打を打った選手もいたはずだが、メディアは洟もひっかけなかった。
そうした部分も、清宮にはダメージになったはずだ。

しかし、早稲田実業も、親もそうした部分に配慮している形跡はない。清宮の能天気なコメントが、それを物語っている。
高校生でも松井秀喜のように慎重で重厚な性格のものもいるが、その点清宮は無邪気で、素朴な性格のようだ。メディアが喜びそうなことを喜々として語っているのは、見ていて本当に危なっかしい。

「清宮君をほめそやしているのだから」「清宮君はファンの期待に応えようと発言しているのだから」それでいい、というのは、情報の受け手としてあまりにもレベルが低すぎる。

普通の読解力があればわかっていただけるはずだが、私は清宮の人格を攻撃する気はさらさらない。
批判と悪口の区別がつかない読者は、日本語の読み手として相当レベルが低い。ただし親の清宮克幸は何を考えているのか、と呆れてはいる。

清宮幸太郎が勘違いをして、メディアに踊らされていること、それを大人が誰もガードしていないことに大きな危惧を抱いている。

日本には数少ない生粋のスラッガーとして、将来を担う人材だから、無用の混乱に巻き込まれ、道を誤ることを危惧している。
だれかしっかりした大人は周囲にいないのか。


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