一部くだらないのはあるにしても、いただくコメントを見る限り、当サイトの読者は相当レベルが高いと思っている。しかし、どうしても解せないこともある。
それは、マーケティングや経営について、一般常識レベルの知識を持った人が意外なほどに少ないことだ。球団の経営にかかわるブログを書いたときの反応に、意外の思いがすることが多いのだ。

そういう関係以外の仕事をしている人が多いのだろうか?公務員さん?自営業?学生さん?
しかしPLやBSなどをチェックする仕事をする人、事業計画を目にする人は結構いると思うのだが。
私は経営のプロでも何でもないが、独立採算の事業部門で働いているときなど、経営計画を立てる仕事をよくした。また昔と違い、昨今の広告屋はマーケティングを知らなければお話にならない。
店舗や新事業などの事業計画書もよく書いた。そういう仕事をしている人、結構いると思うのだ。

そういう「常識」がある前提で、野球改革の話をしているのだが、読者各位の反応を見ると、おおっと、という感じで躓くことも多い。

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「国税通達」の話。いまだにNPBの「強み」だと思っている人がいるとは驚きだ。

職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について 1954年8月

 映画、新聞、地方鉄道等の事業を営む法人(以下「親会社」という。)が、自己の子会社である職業野球団(以下「球団」という。)に対して支出した広告宣伝費等の取扱を、左記のとおり定めたから、これにより取り扱われたい。
 なお、すでに処理を了した事業年度分についても、この取扱と異なつた処理をしたため、再調査の請求または審査の請求がされているものについても、この取扱により処理することとされたい。



一 親会社が、各事業年度において球団に対して支出した金銭のうち、広告宣伝費の性質を有すると認められる部分の金額は、これを支出した事業年度の損金に算入するものとすること。

ニ 親会社が、球団の当該事業年度において生じた欠損金(野球事業から生じた欠損金に限る。以下同じ。)を補てんするため支出した金銭は、球団の当該事業年度において生じた欠損金を限度として、当分のうち特に弊害のない限り、一の「広告宣伝費の性質を有するもの」として取り扱うものとすること。
 右の「球団の当該年度において生じた欠損金」とは、球団が親会社から交付を受けた金銭の額および各事業年度の費用として支出した金額で、税務計算上損金に算入されなかつた金額を益金に算入しないで計算した欠損金をいうものとすること。

三 親会社が、各事業年度において球団に対して支出した金銭を、貸付金等として経理をしている場合においても、当該支出金が二に該当することが明らかなものである場合においては、当該支出をした日を含む事業年度の損金に算入するものとすること。

四 親会社が、この通達の実施の日(昭和29年8月10日)前の各事業年度において、球団に対して支出した金銭を貸付金等として経理しているものについて、じ後の各事業年度においてその一部を償却したときは、球団の当該事業年度において生じた欠損金を限度として、当該償却金額を、その償却をした日を含む事業年度の損金に算入するものとすること。


要するに、親会社が球団の赤字を補填した場合、これを「損金」とし「広告宣伝費」とみなすということだ。要はコストとみなして、課税しないということ。

これによって、親会社は球団の損失補填をしやすくなった。NPBのビジネスモデルの根幹をなすものだ。ではあるが、この恩恵を被っている球団は、もともとそれほど多くははない。

まず、球団の収支がずっと黒字だった巨人は、おそらく一度もこの措置の恩恵を被っていない。
阪神もずっとドル箱だったから、赤字を補填した回数は少ないだろう。ある時期までの中日も同様だ。

広島は1980年代には松田家が経営する単独の企業になっている。東洋工業(現マツダ)は、実質的にはスポンサーになっており、以後は、赤字補填という形での支援はしていない。

パ・リーグ球団、そしてセのヤクルト、大洋はこの恩恵を被っていたはずだ。

しかし、この措置があるから球団が赤字を出してもOKということではない。
税制面の優遇があると言っても、広告経費だと言っても、赤字を補填しているのだから、親会社の収益を圧迫しているのは間違いない。
税制面の優遇によって、すこしは「まし」になるということだ。

親会社が収益が減少したり、赤字になれば、球団経営が大きな負担になるのは当然のことだ。

西鉄や東映の身売りは、そういうことだろう。

1988年に南海と阪急が身売りをしたのは、少し事情が違う。この2球団は、大阪難波、西宮に本拠地があった。バブルの到来によって土地価格が高騰する中で、この一等地で事業を展開しながら、赤字を出している「野球事業」を見直すべきだという声が上がった。
球団が赤字だったことが原因ではなく、ビジネスチャンスを逸していることが問題視されたのだ。

1990年代に入ると、企業経営そのものの考え方が変化する。経営者や従業員ではなく、株主、投資家の意向が経営に強く反映されるようになる。
企業の経営状態ではなく、株価を上げ、配当が増えるような「将来性のある事業」が重要視されるのだ。

2004年の球界再編は、そういう背景で起こった。近鉄の身売りは、親会社が苦しくなったことも大きいが、近鉄バファローズの「将来性」への危惧が大きい。
当時、近鉄の経営を圧迫していたのは、バファローズと、伊勢志摩のテーマパーク「パルケ・エスパーニャ」だった。いずれかを手放すと言われていたが、将来性を勘案してバファローズが売られたのだ。

つまり、今の企業は「赤字か、黒字か」ではなく「将来見込みがあるか」が評価の基準になるのだ。

西武鉄道グループが、2012年、外資ファンドのサーベラス・キャピタル・マネジメントに支配されそうになった時には、サーベラス側は西武ライオンズの売却を提案した。
沿線に根付いた球団事業だが、赤字、黒字にかかわらず、西武ライオンズは、西武鉄道グループの「企業価値の最大化」には役に立たないと判断したのだ。

Jリーグも、同じように税制面の優遇措置を受けている。Jの発足時に川淵三郎さんは国税に掛け合って同等の措置を得るようにした。日産などの会社が参入しやすいようにしたのだ。

しかし、それはあくまで「保険」だった。
発足後、Jリーグの各クラブで、親会社が赤字補填をして、税制面の優遇措置を受けている例はほとんどない。

そんなことをしても経営健全化には全く役立たないし、クラブ、親会社の評価も上がらない。

50年代と90年代という時代の違いもあって、「企業経営」の考え方は大きく変化しているのだ。

今もNPBでは、国税措置による優遇の恩恵を受けている球団はあるはずだが「それでよい」と思っている親会社は一つもないはずだ。株主も従業員も、そして経営者自身も納得していないはずだ。
今や時代の遺物になりつつあり、重要なファクターではなくなっている。

そのことは「NPBの将来」を考えるうえで、しっかりおさえておきたい。

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