NHKのニュースが「しちじ、しちじ、しっちじー」という頃には、もう私は甲子園の外野スタンドにいた(ちなみに、関西人には「ひちじ、ひちじ、ひっちじー」と聞こえる)。
午前ひちじの甲子園。

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始発に乗ったのだが、甲子園に着いた頃には駅の電光板が入場券売り切れ、満員札止めを告示していた。

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ただ甲子園は、外野はタダで入場制限はしていない。いけるだろうと回ってみた。驚いたことに外野もびっしり満員だ。しかし、探せば1つ2つと隙間はある。その隙間に潜り込んで、そこを今日の終の棲家とした。

第1試合が始まる頃は雨も降り、曇りがちで、暑さはほとんど感じなかったのだが、試合が終盤に差し掛かると雲が取れて、陽光が直接差し掛かるようになった。

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しかしその時点では気温は低かった。風も吹いていた。
人というのは、自分の置かれた環境が次第に大変になっていくことをなかなか認めたがらないものだ。
しばらくの間

「暑いけど、風が吹いてて気持ちいいじゃん」とか
「思ったよりも暑くないね」

とか言う声が聞こえていたが、桂枝雀師が「次の御用日」でやっていたような
「夏のおひいさんが、かあーーーーーーーー!」と降り注ぐようになって、みんな気温のことは言わなくなった。



じりじり消耗していくのがわかる。私は「かちわり氷」なんて子供のころ以来買っことがなかったが、今日は2つも使った。
あたまに載せ、首筋に当て、太ももを冷やし、氷が解ければストローですする動作を、2回繰り返した。

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2試合目の途中から、これはもたないのではないか、と思い出した。
何をしても暑い、熱い、辛抱たまらない。
何度かトイレに立ったが、外野席裏の通路には座り込んで動かない人が累々。
隣の女の子が「うらでいっぱいおっさん死んどるがな」とお上品な口調で言っていたが、クールダウンしたまま動けなくなった人がいっぱいいたのだ。

これは限界か、と思った頃、隣の兄ちゃんが
「スコアブック、全部つけてるんですね。大きなカメラも使ってるし、すごいですね」
と声をかけてきた。
「僕は、こんな暑さ、初めてやったんで、たまらんかったけど、甲子園て凄いですね」
私は
「まあ、そうですね」
あいまいに返事をしていたが、話をしているうちに、周囲に私に対する小さなリスペクトの輪ができてしまった。
「あかん、ケツ割って帰られへん」「辛抱せなあかん」と思った。

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3試合目、興南と智辯和歌山が一番きつかった。試合ももつれたし、時間が止まったように思った。
気持ちもイライラする。
隣の若い男は、このクソ暑いのに「唐揚げカレー」買ってきて、のろのろ30分もかけて食べてる。水もろくに飲まずに。
「死んでまうど!」と言いたくなったが黙っていた。

外野席には変わったのがいる、上半身裸のパーリーピーポーが女連れではしゃいでいる。
これも「死んでまうど!」である。

ブログで4試合見に行くと書いたが、最後の大阪桐蔭の試合は「見たこと」にしようか、毎年大阪桐蔭の写真一杯撮ってるから、それで間に合わそうか、と炎天下に悪魔もやってきた。

しかし「甲子園の通の人」という周囲のリスペクトのまなざしが、辛うじて私を踏みとどまらせた。
かちわりに加え、凍ったアクエリアス、凍った麦茶の出動を得て、何度か試合の始まりと終わりのサイレンを聞く。

これはわかっていたことだが、6時を過ぎると甲子園は浜風が吹いて涼しくなる。最後の米子松陰、大阪桐蔭の試合は楽に観戦できた。

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内野席ではそれほど感じたことはなかったが、甲子園で観戦することは、命をすり減らすことだと実感した次第。

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2004年岩瀬仁紀、全登板成績


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