最近の松山の試合に対するゴルフファンの食いつきは凄い。こないだ、空港では、搭乗時間になっても松山のプレーが見たくて、わざわざ搭乗口の列の後ろへ後ろへまわるおじさんがいた。

前週はWGCブリジストン・インビテーショナルで優勝、今週はメジャーである全米プロゴルフ選手権で、最終日の9ホールを終えてトップに立っていたが、最後の9ホールでパットが乱れ、-5で5位に終わった。

ゴルフファンでなくても惜しかったと思う。ホールアウト直後に富永浩が松山に話を聞いた。

富永「おつかれさまでした...。残念としか言いようがないんですけど、振り返ってどうですか」
松山「そうですね...」
富永「まあ、何か足りなかったから勝てなかったと思うんですけど、その何かはなんだろう」
松山選手「…考えます。」
富永「じゃあ、あの、まだフェデックスカップがあるから、気持ち切り替えて頑張ってください」
松山「頑張ります。」
富永「ありがとう」

この短いやり取り、私には最近にない印象的なインタビューだと思った。
富永はシニアの現役プロゴルファーだ。松山のラウンドを、同業のプロとして観戦し、感情移入し
ていたはずだ。その感情をそのまま「残念だ」という言葉でぶつけている。いわば、富永自身が松山そのものになって、気持ちを共有している。
そして松山の、ウェットで重くてグレーな気持ちをそのまま引き出してくれた。
松山の、目に涙を浮かべながらの「考えます」には、万感の思いが含まれている。ここからリベンジして、松山がビッグタイトルを取ったとき、この「考えます」は、大きな意味を持ってくる。

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しかし、このインタビューがブーイングを食らっているという。
「松山に失礼だ」「残念だって何様?」
私には理解できない。松山の包み隠さない本音、本当の気持ちがフレッシュにあふれているのに、それがわからないのだろうか?

確かにマイクを向けたのがアナウンサーならこれはあり得ない。失礼だろう。
しかし大先輩の現役ゴルファーのインタビューだ。ゴルフの難しさも、勝負の厳しさも理解する「仲間」「戦友」が聞くとすれば、こうなって当然だ。
よくぞ率直に聞いてくれたと思う。おそらく松山は富永を失礼だとは思っていないはずだ。

今のテレビ視聴者の多くは、こういうのは望んでいないのだろう。
アナウンサーが、ぺらぺら薄っぺらい口調で「残念でしたねー」とマイクを向けて
「応援してくれたファンに申し訳ない」とか「これからも頑張ります」
とか、予定調和的なコメントをすることを期待していたのだろう。

野球のヒーローインタビューがつまらないのは、ずっと言っていることだ。
「この喜びを誰に伝えたいですか」
「応援してくださったたくさんのファンに一言」
選手もろくなコメントはしない。せっかく試合の直後に話を聞いているのに、試合やプレーの内容はほとんど話題にならない。
「勝ったからうれしい」「応援してもらって感謝」みたいな、聞いてどうする、聞かなくてもわかるだろ、と言いたくなるようなインタビューを判で押したようにする。

ただ松山英樹の今回のインタビューへの反応を見てみると、こういう内容のない形式的なやりとりには、一定のニーズがあることがわかる。

先日、私はあるメディアの人と話をした。
「なぜあんなつまらないインタビューしかできないのか?」と聞くと、それはよくわかっているが、ルーティンを外れたことをきいて、物議をかもしたり、非難されるのが怖いのでこういう形になっている、とのことだった。

テレビは今、バラエティ番組が猖獗を極めているが、これも出演者が「面白いこと」を言いつつ予定調和的に番組を終わらせるのが常だ。面白くても破たんのリスクがあるようなことはしない。
ネット民などに叩かれるのが怖いし、スポンサーもいい顔をしない。

率直に言って、番組などのコンテンツは「悪貨が良貨を駆逐する」であり、リテラシーが低く、物の価値がわからないターゲットの意向にそってどんどんレベルが下がっている。

今回のインタビューで富永浩がたたかれることで、アスリートの本音を聞く率直なインタビューは、まずます聞かれなくなるのだろうと思う。スポーツジャーナリズムはまた、少しだけ馬鹿になる。



2004年岩瀬仁紀、全登板成績


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