もう20年以上も前に、毎日新聞社のジャーナリスト、大野晃さんが日本の新聞のスポーツ報道について冷静な報道の姿勢を忘れて「ヒーローづくりに奔走」していると、自戒を込めて指摘している。
その姿勢は、今や「狂奔」といってもよいくらいヒートアップしている。
今夏、メディアは例によって予定調和的なストーリーを建てていた。
それは「清宮幸太郎、最後の夏」というものだった。
しかし清宮率いる早稲田実業は、東海大菅生に敗退。清宮は甲子園に姿を現すことはできなかった。

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めぼしいヒーローがいないまま甲子園が始まる。それでも例年盛り上がるが、試合が進むとともに、広陵の中村奨成というスラッガーが、ヒーローとして台頭した。

そこでメディアは清宮に代わって中村を軸としたお話を建てようと考えた。
32年ぶりに清原和博の記録をクリア、清原というのも近年、香ばしい話題を振りまいているし、なかなかよろしい。それに母子家庭というのも話題性がある。
決勝戦は、さらに本塁打記録を積み上げて、涙の栄冠と行きたいところだったが、決勝、広陵は4-14で花咲徳栄に惨敗、打撃戦だったが、両チーム通じて本塁打は出なかった。

スポーツは筋書きのないドラマだから、もともとままならぬものではあるが、スポーツメディアはずいぶんがっかりしていることだろう。

それにしても朝日放送の実況中継は本当にひどい。安打や本塁打のたびにアナウンサーが声を張り上げて大騒ぎする。野球中継でも最低の部類だ。
関西ローカルの朝日放送にとって、全国に名前を売るチャンスではある。スポーツアナには花形の仕事だろうが、実況中継としては最悪だ。

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スポーツは、盛り上がれば盛り上がるほど、実況中継は冷静であってほしい。その対比、コントラプンクトが、目の前で起こっているドラマを鮮やかに引き立てるのだ。

少し前、大相撲の優勝決定の一番で、アナウンサーが時間前の仕切りの数十秒間、実況をやめて場内の音声をそのまま伝えたことがあった。場内の人々の気持ちが高まるさまが、テレビ画面から伝わってくるような気がした。

視聴者は馬鹿ではない。アナウンサーががーがー騒がなくとも、スタジアムで何が起こっているかはわかっている。騒げば騒ぐほど、テレビの向こうのスポーツシーンのリアリティがなくなる。
そしてアナウンサーが馬鹿に見えて、信用できなくなる。

「スポーツ実況はこういうものだ」と思っているのは、関係者以外にはそれほど多くないはずだ。いい加減に見直してほしい。

メディアは早くも「次のお話」の捏造に取り掛かっている。U18の世界大会で清宮幸太郎が主将に選ばれ、中村奨成も加わるという。
カナダの大会は、また大騒ぎする気だろう。
一昨年、清宮が1年、オコエ瑠偉が3年の大会は日本で行われた。海外のチームのプレーは、日本とは全くスタイルが違い、なかなか見ごたえがあった。日本人選手の特色や短所もよくわかったが、メディアはそういうものは追わない。
例によって日本が勝ったか負けたか、清宮と中村が打ったか打たなかったかだけを大騒ぎして伝えるだけだろう。

本当は面白い試合が行われているのにもかかわらず、馬鹿なメディアのせいでその魅力が伝わらない。
日本のスポーツジャーナリズムは本当に嘆かわしい。




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