藤浪晋太郎は、大阪弁でいえば「ほん、ええ子や」と思っている。巨大な体だが、素直でちょっと気が利かず、野球が好きな中学生、と言った印象を持っている。2年前のキャンプでは、その体の柔らかさ、ストライドの大きさに驚いたことがある。

高校時代から「曼荼羅」に「160km/h投げる」とか「MLB挑戦」とか、自分の将来の夢を記入して、着々とそれを実現している大谷翔平とは対照的に、藤浪晋太郎は純朴な性格のままここまで来た。
そして自分をコントロールできず、強面の指導者にびびりながら、スランプから脱しようとしているようだ。

8月18日の日刊スポーツに、16日の試合で藤浪にぶつけられた広島の大瀬良大地が、藤浪に笑いかけたことが載っている。
大瀬良は記者に「無意識ですね、とっさに『大丈夫!』と声に出してました。晋太郎の顔が青ざめていたから…」と答えたという。

大瀬良と藤浪は2015年から自主トレを一緒にやる仲だ。投手談義にふける仲であり、大瀬良は藤浪の制球難を気にかけていたという。
春先には「その気持ち、オレもわかるよ」とメールをしていたという。

同じ投手として、メンタル面の「揺れ」はよくわかるのだろう。大瀬良も救援から先発に転向し、エースと目されながら投げられない日々もあった。投手としての悩みは共有している。

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二人は年齢も、出身も、チームも異なるが、ウマがあるのだろう。そういう関係の大瀬良にとって、藤浪の乱調は他人事と捨て置けないことだった。
自分が藤浪に当てられたのは、予想外だったろうが、大事に至らなかったのだから、許せる。むしろ、他の投手にぶつけるより、フォローができる分、まだしも自分にあててくれて良かったという気持ちもあろう。

「戦友」とでも言うべきか。常人のレベルでは考えられない厳しい舞台を踏んでいる同士だからわかる連帯感のようなものか。

「わしらのころは、他球団の選手と口をきくことはなかった。ましてや自主トレを一緒にやるなんて考えられん、だから今の試合は緊張感がない」
と年寄りの野球人は言うが、反対に言えば、チームの枠に凝り固まっていたから、引退後もその人脈でしか生きることはできないし、NPB全体、野球界を考える視野もできない。

同じアスリートとして情報交換し、切磋琢磨するほうが自然だし、選手の主体性もできると思う。
仲が良いから藤浪と大瀬良は互いに手加減するとは思えない。

ファンの中には、口汚く藤浪をののしり「パ・リーグにトレードされろ!」という人もいるようだが、野球という競技を愛し、その中の広島なり阪神を応援するのではなく、広島さえよければよい、阪神が勝てばそれでいいというファンは、あえて言うが「二流」である。

相手がなければ試合は成り立たない。藤浪がわざとぶつけたのならともかく、乱調をきたしてそうなったのだから、それを責めるのは正しいとは言えない。好敵手の復帰を期待するのが正しい態度だろう。

同じ状況に立つものとして、ライバルは、最大の共感者にもなり得る。真剣勝負の場で相まみえるからこそ、芽生える友情、連帯感もあろう。

かんかんになって勝敗にこだわる日本の野球界で、このエピソードは一服の清涼剤だった。

このコラムは日刊スポーツの佐井陽介記者の手になる。スポーツ新聞もたまにはいい記事を書くのだ。




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