FBである方とやり取りをしていて、高校野球の「功罪」についてはっきり言ってこなかったことに思いが至った。今更ではあるが高校野球の「功罪」についてそれぞれ意見を述べて、読者各位とともに考えたい。
高校野球の「功」は非常に大きい。
高校野球がなければ、日本の野球はここまでポピュラーにはならなかった。競技人口も、ファンもここまで増えず、「ナショナルパスタイム」にはならなかった。

1.競技人口を圧倒的に増やした

何度もふれているが、日本の野球は「お雇い外国人」がエリート大学生に手ほどきをすることで始まった。
もともとは大学生の遊びだった。明治時代、大学生=「学士様」は、田舎の学校であれば卒業すれば即、教頭、校長に任じられるようなエリートだった。
「野球」も、エリートの遊びであり、庶民には高根の花だった。明治期には大学野球のリーグ戦が始まり、人気を博するようになるが、所詮はエリート階級の嗜みであり、一般庶民はあこがれることこそあれ、競技をすることは考えられなかった。
その後軟式球が開発され、少年野球が盛んになるが、その人気も一部にとどまった。
野球が全国津々浦々に普及したのは、朝日新聞が中等学校を対象にした全国大会を始めてからだ。この大会は、予想以上の人気を呼び、「甲子園球場」が誕生するや、全国の注目を集めるようになる。
母校や郷土の名誉を担ってプレーする選手たちは、ジモトノヒーローニナッタ。
戦後、中等学校野球は高校野球と名を変える。学制改革によって、全国に高等学校が創設されるとともに、高校野球は女子高を除くほとんどの学校で行われるようになり、代表的な「部活」となる。すそ野の広がりとともに「甲子園」のステイタスも上がり、春と夏の全国的な国民イベントとなる。

中等学校野球を発案したのは長谷川如是閑だと言われているが、これが生まれなければ、野球の競技人口は絶対に広がらなかっただろう。

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2.日本の「野球のスタイル」を確立した

「学生野球の父」と言われた飛田穂洲は、大学野球の指導者として重きをなしたが、中等学校野球の始まりとともに朝日新聞で健筆をふるった。
「一球入魂」と言われる精神野球を唱え、守備を重視し、スタンドプレーを固く戒め、全員野球の重要性を説いた。また練習の重要性を訴え、猛練習あっての野球であるとした。
今、甲子園ではどのチームも同じようにシートノックをし、きびきびとした動きで球を処理する。全国の高校野球は、ほぼ同じスタイルの野球をしているが、この基本を固めたのも飛田穂洲だ。
今ではさまざまな野球理論があるが、その大元は変わらない。
日本の大学、社会人、プロ野球で、高校野球を経験していない選手は皆無だ。高校野球で身に着けた野球の動き、考え方が、日本の「野球のスタイル」になっている。その意味で、高校野球は、すべての日本の野球の原点ともいえよう。
MLBの関係者は、日本人選手が守備や走塁で機敏な動きができることに驚くが、これらも「高校野球」によって培われたものだと言えよう。

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3.野球独特の「規律の文化」を確立した

監督、指導者への絶対服従、学年の違いによる厳しい上下関係。これらも「高校野球」が培ってきたものだ。目上に対する挨拶、厳しい規律なども高校野球によって培われた。
こうした規律は、軍隊を想起させるが、これは軍国主義が進む戦前にあって「敵性スポーツ」として排斥されることを案じた関係者が「野球は強い兵士を作る上で役に立つ」ことを軍部にアピールし、軍隊のスタイルを野球に取り入れたのが大きいという。
時代の変化とともに、野球の規律、上下関係は多少変化したが、基本的な部分は不変だ。一般に「体育会系」と言われるタイプの「典型」と言ってもよい。
高度経済成長期に高校野球をはじめとする野球経験者は、「企業戦士」として重用された。礼儀正しく、上司の命令に絶対服従し、頑張りぬく野球経験者たちは、高いパフォーマンスを発揮したのだ。
日本人の折り目正しさ、まじめさの源泉の一つにもなったと言えよう。

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4.野球の「アマチュアリズム」を維持、発展させた

戦後、プロ野球が急速に発展し、大人気となった。プロ野球界は、コマーシャリズムに乗って人気者を多く輩出したが、プロ野球は常に「金の話」がついて回る世界だった。
しかし、プロ野球が発展しても、高校野球の人気が衰えなかったために、日本では「プロ野球」と「高校野球」という性格の異なる二つの「世界」が維持された。特に1950年代後半からは大学野球の人気が低下する中で、高校野球の地位は相対的に上がった。
「華やかでぜいたくなプロ野球」と「純真で質素な高校野球」が並立することで、日本の野球は絶妙のバランスを保ってきたと言えるだろう。

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高校野球の「功」と言えば、こういうことが想起される。みなさんはどう思うか?




夢の裏バットマンレース(後半戦)


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