私の人生の数パーセントは犬の散歩に費やされている。物心ついたころから、集合住宅に住んだ時期を除いて、常に犬がいたからだ。今も在宅のときは1日1時間は犬と歩いている。最近はスマホで音楽を聴くことが多い、そういや昔はラジオでナイターを聞いていた。
バッキーの乱闘、末次民夫の代打逆転満塁本塁打、池田純一の落球、王貞治の714号、15号、756号、南海ホークスの死んだふり優勝、阪急福本豊の盗塁記録、掛布雅之の登場、そういう昭和の野球の出来事は、みんな耳から入ってきた。パ・リーグの試合など、ラジオしかなかったから、自然にそうなった。

松木謙二郎、横溝桂、花井悠、金山次郎、宅和元司などの解説者は、顔は全く浮かばないが、声はありありと耳に残っている。塩辛声で面白い解説をする人が多かった。

そういえば、相撲のラジオ中継も面白かった。先代三保ケ関が、関西訛りで「もっとケツをあげんとあかん」と言って、NHKのアナを慌てさせたりしていた。神風正一さんも、ラジオの方が生き生きしていた。

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確かに、昔は野球情報をラジオから得ていたのだ。しかし、申し訳ないことに私はもう何年もラジオを聴いていない。私は落語狂だった時期が長い。その頃はどこにでもラジカセを持って行って、息をのむようにして落語の放送を録音していた。そういう音源が我が家にはカセットテープでで3000本ほどある。しかしそれもやめて30年が経つ。

そもそも今は、ラジオを聴くための道具を持っていない。ラジコというものがあるのを知っているが、使ったことがない。
野球の情報はネットで入ってくるし、地上波ではなくなったものの、BS、CSでは大抵の野球中継を視聴することができる。その必要性を感じない。

しかしながら「面白い解説」は圧倒的にラジオに多い。テレビよりもお手軽で、気楽な気分になれるからだろうが、解説者の失言も多い。
豊田泰光が「俺だって1000三振してんだよ」とアナにかみついたのも、青田昇が巨人の打撃コーチだった福田昌久を「(現役時代に)カーブが打てなかったやつがコーチをしてるんだから、巨人の打撃が良くなるはずがない」と言ったのも、千葉茂が巨人、山本和生のちんたらプレーに腹を立てて「あんな奴はクビだ」と言ったのも、川上哲治が「今日、淡口憲治があいさつに来たと思ったら、やっぱりヒットを打ちましたよ」と言ったのもラジオだった。

もう一度ラジオを聴いてみようと思った矢先に、TBSがラジオの野球実況中継をやめるという話が入ってきた。聴取料が激減しているのだという。
聴取者の大部分は男性で、しかも中高年が多い。野球ファンのコアであり、スポーツ紙のメイン読者だが、同時にこの層が愛好するものは、将来性がないとされる。
TBSは、経営感覚がない会社だ。「売り上げが減ったからやめる」ということだろう。右へ倣えする局が出てくるのではないか。

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私は20年ほど前、流通企業の広告、販促責任者だったことがあるが、その頃でもラジオは「おまけ」だった。広告代理店が持ってくる媒体企画書でも、大部分はテレビで、ラジオは微々たる費用だった。

よくやっているなと思っていたが、おそらく、ラジオ全体の売上もお寒いものになっているのだろう。昔の放送作家は、ラジオで面白いマイナー番組を作ってそこから出世したものだが、今はそうではないとも聞いた。そもそも聴取者が激減して、話題にならないのだという。

一時は最も聴取率が良かったTBSラジオの撤退で、野球放送の「良心」ともいえるラジオの野球中継は、衰退の一途をたどるだろう。最大の問題は実況中継ができるスポーツアナの絶滅だろう。
今でさえも、ろくに実況ができないアナが大部分だが、戦前から伝わる選手の動きを瞬時に伝える「匠の技」も途絶えるのだろう。

これも「野球危機」の一兆候だと思うが、食い止めるすべはない。地方局で、細々とでもいいから存続してほしいと思うのみ。




夢の裏バットマンレース(後半戦)


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