金田正一 週刊ポスト
「ワシらが現役の時は、他チームの選手とまで合同でトレーニングをやるなんてことは絶対になかった。他球団の選手はもちろん、チームメイトだってライバルですよ。体作りひとつとっても企業秘密で簡単に教えたりはしなかったぞ。仲良くなれば馴れ合いになるし、ましてやそれが他チームの選手だったりすれば、厳しいコースを攻められなくなるじゃろう。最近の選手にはプロ意識が欠けとると常々思うが、仲良し自主トレはその象徴ですよ」
日本のプロ野球選手は、あたかも球団に「就職」するか、「奉公」に上がるかのような認識で入団する。球団への忠誠心は非常に強く、組織の一員であるかのようにふるまうことも多い。

本来、選手は個人事業主であり、球団とは契約関係でつながっているだけなのに、社員のような高いロイヤリティをもつ選手も多い。
昔、原辰徳が2年で監督を解任されたときに、巨人は「讀賣グループの人事異動だ」と言ったが、球団側もそういう感覚でいたのだろう。

中にはヤクルトや昔の大洋のようにヤクルト本社、大洋漁業の社員として入社したのちに、プロ入りするケースもあった。
山口高志は松下電器から阪急に入団した際に「60歳まで雇用」という契約をした。その契約は1988年に阪急が身売りした際もオリックスに引き継がれたという。

日本の国が終身雇用で成り立っていて「一生1つの会社でお世話になる」ことがまっとうだと思われていた時代の感覚が、プロ野球にも色濃く残っていた。

だから「移籍」は、球団、会社の和を乱す不届きものに対する懲罰的なニュアンスがあったし、トレードで出る選手は「悲運」だと思われていた。

そういう感覚でいえば、他球団の選手と一緒に自主トレをするのは、会社に弓を引く「不忠もの」の行いだと見えるだろう。

しかし、現代のプロ野球選手は自分の能力一つで世渡りをする存在であり、まさにプロフェッショナルだ。自分で判断し、おのが能力で世渡りをする。球団の顔色を窺って、組織の和を乱さないだけの選手は、小物であり、プロとは言えない。

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MLBの選手は、球団の壁など一切構わずに交流をする。それどころかウィンターリーグでは、シーズン中はライバル球団にいる選手とチームメイトにもなる
NPBとは比べ物にならないほど移籍が多く、目まぐるしく球団が変わるMLB選手にとって「仲間」は「チームメイト」とは限らない。「肝胆相照らす中」であれば、どのチームの選手とも一緒に練習するし、情報交換もするのだ

NPBも遅ればせながら、そういう風になって来た。他球団の選手と自主トレをするのは、選手が一個のプロとしての自覚を持ち始めたからだろう。

金田正一は、選手が他球団の選手に球団のシークレットを漏らすことを懸念しているが、そういう低次元の付き合いはしていないはずだ。そういう形でチームの秘密を漏らす選手は、信用されないだろう。またサインや作戦は毎年変る。昔と違ってコーチ陣も球団を移籍しているのだから、そういう心配は無用だろう。

2004年の球界再編騒動の時を見てもわかるように、選手が球団の枠を超えて問題を共有することの意義は非常に大きい。

金田正一の時代とは、選手の意識が違う。今の方が選手のレベルははるかに高いといえると思う。


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