投手の酷使、そしてPAPは、一筋縄では行かない問題である。

一つには、個人差が極めて大きいこと。何百球投げても故障しない投手もいれば、すぐに投げられなくなる投手もいる。あの投手が大丈夫だったから、この投手も、というわけにはいかないのだ。

二つ目に、一度大きなPAPがついてしまえば、元に戻らない可能性があること。
大きなPAPがついた後にパフォーマンスが落ちるケースでは、2つのことが起こっている可能性がある。一つは単純な疲労。筋肉に疲労がたまったり、炎症を起こしたりするケース。これは、ノースローで安静にしていればパフォーマンスは回復する。
もう一つは肩やひじの靭帯や腱板の損傷。この場合は、安静にしていてもパフォーマンスは元には戻らない。手術やPRP療法などの治療を施さなければならない。
多くの場合、PAPが大きくなれば、投手は多かれ少なかれ靭帯を損傷している。また、体の他の部位も故障している可能性がある。

MLBでPAPを重視するのは、はっきりした原因はわからないものの、この数値が上がれば、投手に関するあらゆるリスクが高まるからだ。

PAPそのものには、懐疑的な声が上がっている。「100球」という基準に科学的な根拠がないからだ。またダルビッシュ有が指摘しているように「登板間隔」の要素も入っていない。あまりにも単純で、荒っぽい基準だと言われている。

しかしMLBでは黄信号とされる10万を超えるPAPを記録する投手は、皆無だ。

2017年のMLBのPAP上位10人。

PAP-MLB


10万は愚か、半分の5万にも達していない。それでいてバーランダーは3500球を投げている。バーランダーは13シーズンのうち11シーズンで3000球以上を投げている。
PAPが原始的な数値であっても、このランキングを見れば、それを遵守することが無意味だとは言えないだろう。

ついでにNPBの両リーグPAP上位5人。

PAP-NPB


MLBとNPBでは本当に桁違いになっている。MLBの関係者が驚くのも無理はない。

パの方が本格派の投手が多いので、PAPの数値は高い。

しかし今年の基準と比べても、過去の藤浪のPAPは以上だったことがわかる。

ちなみに則本昂大は過去5年で3シーズン3000球を投げている。またPAPも最高で50万まで行った。しかし壊れていない。日本人にもそういう投手がいる。
ただ、今季後半は奪三振を狙わず、投球効率を上げたことで球数を2916球に抑えている。

昼にあげた表をもう1度上げる。

PAP-3nin


藤浪の2015、2016年のPAPは、バーランダーのキャリアのPAP総計に相当するのだ。

これに対し、大谷翔平は大事に使われていることがわかる。PAPが20万を超えたのは1回だけ。
日本ハムは最も選手の健康管理に熱心だと言われるが、「資産」である選手の健康に十分配慮しているのがわかる。

もちろん、MLBの基準からすればそれでも高いが、藤浪とは比較にならない。大谷はそれでもPRP注射を打ったと報じられている。

こうした現状を見たうえで、今の阪神の状況をどう思うだろうか?

金本監督は「藤浪の不振は技術的問題」と言った。「責任論」で投手をつぶしたことを棚に上げて、技術さえ改善すれば何とかなると言った。あまりの時代錯誤、不勉強にあきれてしまう。

仮に藤浪のパフォーマンスが回復すれば、金本阪神はまた130球、140球と投げさせるだろう。そして「責任を果たせ」というだろう。

スポーツ紙も他のメディアも、こういうことを正面から取り上げない。これも問題だと思う。

今、藤浪に必要なのは炎の業でもなく、投げ込みでもなく、走り込みでもなく、メディカルチェックだろう。通り一遍のものではなく、最先端の機器で全身をチェックすべきだ。

明日は、阪神の救援投手の問題について取り上げる。

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