救援投手をめぐる数字も、いろいろと考えさせるものである。PAPの100球が単なる目安であり、科学的根拠がないのと同様「救援登板50」にも根拠はない。単なる目安である。
しかし森繁和さんが「救援投手の疲労度は、ベンチに腰を下ろした回数で決まる」と言ったことを信じるとすれば、救援投手にとって「登板試合数」は重要な指標だといえよう。

球数だけを考えれば、救援投手は、先発投手とは比較にならないほど楽な仕事ということになる。
昨年、最も活躍した救援投手であるサファテでもシーズン投球数は1000球ちょっと。3000球を投げる先発投手の3分の1だ。それだけを考えれば、救援投手が故障することなど考えられない。

しかし救援投手は先発投手以上に壊れやすい。それはなぜなのか?
最近の肘、肩の研究によって、投手が全力投球をすれば、たった1球でも故障する可能性があることが分かっている。

先発投手は最初から飛ばさない。ペース配分を考え、手を抜くところは抜き、ここぞというところだけ力を入れる。それができない投手は、プロでは先発として生きていけない。

しかし救援投手は、試合の深いところで出てくる。3人の打者を完全に抑えることが求められる。勢い全力投球をせざるを得ない。だからリスクが高いということだ。

マリアノ・リベラ、このたびMLB殿堂入りしたトレバー・ホフマン、NPBでは岩瀬仁紀、佐々木主浩のような成功した救援投手は、全力投球しなくても、肩・肘に大きな負担をかけなくても、相手を討ち取ることができるマネー・ピッチを持っていたということになる。
リベラのカット・ファーストボール、ホフマンのチェンジアップ、岩瀬の2シーム(シンカー)、佐々木のフォークなどはそれだということになろう。
どんな球種でも変な投げ方をすれば故障のリスクは高まるが、これらの投手は自分の体に負担にならない投法で、打者を翻弄する球種を編み出したということだ。

この領域まで至っていない多くの救援投手は、故障のリスクにおびえながら全力投球をしていることになる。救援登板が増えれば、そのリスクも増えていく。さらに肩、ひじを壊さなくても、疲労が蓄積して投げられなくなる。ストレスもかなりのものだろう。

指揮官に求められるのは、救援投手がそういう状況で野球をしていることを理解し、彼らをできるだけ長く活用できるように留意することだろう。
4番打者やエースと異なり、救援投手は1人ではできない。クローザー、セットアッパーを合わせて5人程度の投手が担うことになる。少数の投手に負担が集中しないように配慮しながら起用することが大事だ。

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阪神というチームは、そういう部分をちゃんと理解して賢く救援投手を使ってきたとはいいがたい。先発投手でもそうだが、投手が規格外の活躍をすると「あの投手にできて、お前にできないはずはない」と同様の無理を強いることが多い。メッセンジャーに対する藤浪晋太郎がそうだが、JFKが壊れた後、とっかえひっかえ代わりの投手を使い捨てしたのも同じことだろう。

金本監督は2016年にマテオが登板過多で投げられなくなり、ドリスもオフに手術を余儀なくされたことから、2017年は球数を数え、ブルペンでの練習も制限して救援投手を使ったと報じられている。しかし、その結果として4投手に60試合登板を強いた。
彼ら4人が揃って昨年と同じパフォーマンスをすることはまず考えられない。金本が賢明な監督であれば、今年はシーズン当初から4投手の登板数を減らして、他の投手の登板機会を増やすだろうが、そうでなければ去年と同じような過酷な投球を強いることになるだろう。
あるいは、誰かが投げられなくなったら石崎をその代わりに突っ込むとは思うが、そういう起用の結果として、4人の中で脱落者が出る可能性はあるだろう。

DeNAのラミレス監督も昨年、5投手に60試合登板を課した。彼も巨人との競り合いの中で、救援投手に無理をさせる結果になった。金本監督同様、今後の起用が注目されるが、ラミレス監督は日ハムからエスコバーを起用して救援で使った。この投手は日ハムでは終わった投手という扱いだった。成績はよくなかった。しかしラミレス監督は多少の失点は覚悟で、彼を救援投手の「数のうち」に加えた。このセンスを私は評価している。

なんとしても優勝を、と思う指揮官は特に救援投手に無理を強いることになる。しかし「資産」として大事に救援投手を使う指揮官が、本当に賢明なのだと思う。


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