ジャイアンツ、ホークスOB戦のために、宮崎に両軍のOBが多数駆け付けた。キャンプ地でもマッシー村上、中畑清などの姿を見かけた、昨年暮れにつれあいを亡くした野村克也も元気にやってきたようだ。
で、来れば当然、キャンプ地を回る。自身の出里であるソフトバンク・ホークスにも行く。サッチーと結婚したばかりに南海ホークスを追われたのは、もう40年以上も前のことだ。恩讐は過去のことと割り切ったのだろう。ちょっとほっとする。

で、柳田悠岐の打撃練習を見て、こういうことを言ったという。

西日本スポーツ

野村「王さんに、いろいろ言われない?」
柳田「はい、言われます」
野村「やっぱり言われるか、アッパーだな」
柳田「(自分自身の)イメージはダウンで、あのくらいです」
野村「あんなスイングで結果を出されたら困るんだよ。プロ野球発展の邪魔になる。みな、王や長嶋の真似をしてレベルスイングなんだから。今は柳田の時代だから、そういうのを背負ってスイングしないと」
柳田「ありがとうございます」
(以下略)


柳田は3分ほどのやり取りの後、「(練習を)休めました」
と笑ったという。

西日本の記者はなんかいい話風にまとめていたが、典型的な老害だ。

日本野球では「投球に逆らわない打撃」「レベルスイング」「ダウンスイング」が良いとされた。ライナーやゴロで野手の間を抜けるのが、打球の神髄であると。

この考え方は飛田穂州以来の「信仰」と言ってもよい。安打と犠打で点を取るのが正しいオフェンスであって、本塁打を狙うのは邪道だと。

現役時代の野村克也も、球をずいぶんすくい上げていたように思うが、柳田のようにスイングは大きくなかった。鋭く速く振りぬいていた。それでも、当時の日本のスタジアムは両翼90mだから、ライナーでスタンド前列に飛び込んだ。野村ははかったように、最短距離の本塁打を打ったものだ。

なぜかわからないが、日本野球では本塁打を打った選手に、指導者がペナルティを科すこともあった。「調子に乗るなよ」と次の打席でバントをさせたり、エンドランをさせたりするのだ。戦前、明治大の大下弘が本塁打をぽんぽん打つので「ぽんちゃん」と言われたのは有名だが、ここには少なからぬ非難のニュアンスもあったのだ。

本塁打は試合を決める上では、決定的なリザルトだ。これ以上の結果はない。打者と生まれたからには、これを狙って当たり前のはずだ。
こないだ、根鈴雄次さんに話を聞いたが、彼は「アメリカで、ホームランを狙わない子供はいない」と言った。だからみんなフルスイングする。打球を上げようとするから、アッパーにもなる。打撃とは、いかにフルスイングするか、いかにパワーを球に伝えるか、なのだ。

MLBでは昨年、フライボール革命が始まったが、その前から「強いスイング」ができることが打者の最大の評価だった。
ようやく、NPBにも柳田悠岐や吉田正尚のように、フルスイングを身上とする選手が出てきたのだ

そういう経緯を理解せず、「昭和の野球」を、時代もスケールも違う平成の選手たちに押し付けるから、年寄りは困るのだ。
踊りの家元じゃあるまいし
「お師匠さんの教えたとおりにやるんですよ、よござんすか」
ではないだろう。
柳田の「休めました」は、素晴らしい返しだ。
王貞治はそんな野暮なことは言わないだろう。
柳田は、「変な爺さんと話をした」くらいに思えばいいだろう。

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野村克也、投手別本塁打数|本塁打大全


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