野球くじの問題を巡って、私は野球くじを容認する方向を打ち出したコミッショナー側と、野球賭博を起こした球団や、選手会は「違う立場だ」と説明した。「全部、同じ野球界じゃないか」」という意見を言う人は、何と頭が悪いんだ、と思っていた。そのことについて、少し修正する必要を感じた。
「野球」と「サッカー」を「キャピュレット家」と「モンタギュー家」みたいに対立する間柄だと思うのは、愚かな考え方だ。そのことはもう一度強調したい。
しかし「野球くじには、野球界全体が賛成しているんじゃないか」とサッカーファンが思うのは、無理もない一面がある。

サッカー界ではDAZNの加入にしても、いろいろなビジネス展開にしても、それが発表されれば、それは「サッカー界全体の意志」である。
DAZNとの契約はJリーグだが、それについてはJFAや学生サッカー界も承知している。各クラブのオーナーも承認し、それを歓迎している。
つまり、サッカー界は一枚岩であり、その意志は原則として「サッカー界全体の総意」なのだ。
昔のサッカー界はそうではなくて、様々な意向が錯綜していたが、Jリーグの発足後、一本にまとめられたのだ。これはすごいことだ。他のスポーツ界を見ても、そうなっているところはほとんどない。

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そうしたサッカー界の常識で、NPBの決定を見れば「野球くじ導入を野球界全体の意志だ」と思うのは、やむを得ない部分がある。しかし、それは違うのだ。
「プロ野球界の総意」は実質的に存在しないのだ。

野球協約によれば、NPBは、プロ野球界を統括する機構であり、コミッショナーは最高決定者だとされているが、実際にはNPB球団の利害にかかわる問題については、何一つ自分で決めることができない。
球団の利害にかかわることは、オーナー会議、実行委員会など12球団の代表者による会議で決まる。コミッショナーももちろん出席するが、彼が意思を表明することはないし、その意見が反映されることはない。
コミッショナーが意見を言うときは、オーナー全体、あるいは特定球団の意向をくんだ意見だけだ。要するに傀儡なのだ。
12球団の会合は、多くの場合「野球界全体の利益」を考えた意思決定ではなく、各球団の「利害調整」の場となる。だから「談合」という方が現実に近い。

2004年の球界再編問題の時、当時の根來泰周コミッショナーは「私には権限がない」を連発した。
また1977年の江川事件では、金子鋭コミッショナーが「強い意向」で江川卓の阪神から巨人へのトレードを推進したが、これは巨人側の意向をくんだものだった。
そもそもコミッショナーは、オーナー側が人選をする。自分たちにとって邪魔にならない、無毒無害な人材を持ってくるのが常だ。

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珍しくコミッショナーが独力で政策を決めたことがある。2011年の「統一球」だ。これは、元駐米大使で、MLBに精通する加藤良三コミッショナーが導入を推進した。12球団がこれを黙認したのは、利害に関係がなかったからだろう。
しかしNPB事務局単独でNPBの使用球を総替えするという大きな事業を推進するのは無理があった。反発係数をめぐって問題が続出した。高級官僚上がりの加藤コミッショナーには事業を推進する能力はなかったし、新聞社などからの出向者が取り仕切る事務局にも当事者能力は乏しかった。
今は、おさまっているが、コミッショナーが独断で事を勧めてもろくなことにはならないという事例を残したにとどまった。

今回の「野球くじ」の問題は、有志議員の意向ではじまった。NPBは今、財政的に苦しいので、少しでもお金が入るのであれば前向きに検討したいのだ。
オーナーたちは、自分たちの球団には一銭も入らないのであまり関心がない。ただ、NPBへの年会費を1億円から一挙に1000万円に減額した後ろめたさもあるので、これを容認しているということなのだ。

こういう状態で野球界の発展など望むべくもない。お恥ずかしい話だが、サッカー界とは事情が違いすぎるのだ。野球界全体の将来を考える段階にはまだ至っていないのだ。


2017年井納翔一、全登板成績


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