映画『マネーボール』封切り直前である。
本の中でMLBの球団間の経済格差が広がっていることを問題にしたコミッショナー、バド・セリグは、「サラリーキャップ」の導入を腹案にもって学者、財界人のブレーンに調査を依頼する。確かに格差は拡大していたが、調査団の一人、元FRB議長のポール・ボルカーは、ただ1チーム、最低年俸に近いのにトップクラスの勝ち星を上げているチームがあることを指摘する。これが、ビリー・ビーンGM率いるオークランド・アスレチックス=OAKだった。

ビリー・ビーンは、選手獲得に独自のデータを活用したこと。特にセイバーメトリクスを積極的に導入したことで知られるが、GMとしての真骨頂は高騰しつつあった「白星単価」を下げたことではなかったか。
ビリー・ビーンがOAKのGMに就任して13年、1勝の価格は、どう推移しているのか。直近5年間の30球団の「白星単価」を調べてみた。Wは勝ち星。90以上を赤、72以下を緑にした。$/Wが「白星単価」。各球団のMLB選手の年俸総額を、勝ち星で割ったものだ。RKは$/W の30球団でのランク。安い順。上位3球団を赤、下位3球団を緑。単位は万ドル。

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OAKは「白星単価」では30球団中11位、4位、3位、2位、8位と相変わらず上位にいるが、2008年以降は、昨年の81勝、5割が最高。コストパフォーマンスが良いとはいえない。ビリー・ビーンの神通力は2007年を最後に鳴りを潜めている。結局、この頃から他球団が真似をして選手を取り始めたのだろう。
ニューヨーク・ヤンキース=NYYは、毎年トップクラスの金遣いをしながらただ1球団、上位を維持している。OAKとは対極だ。BOSは2010年、NYYの向こうを張って大投資をしたのだが、それから2年、ポストシーズンに進出していない。また、デトロイト・タイガース=DETも2008年にNYY張りの大補強をしたが、大失敗に終わっている。シアトル・マリナーズ=SEAも2008年の大投資が裏目に出てから低迷している。
ミネソタ・ツインズ=MINは、OAKの後継者とも言うべきコストパフォーマンスの良さだったが、マウアーと長期契約を結ぶなど大投資をしたとたんに最下位に沈んでいる。
ナリーグでは、ニューヨーク・メッツ=NYM、シカゴ・カブス=CHCが、不良債権に苦しんできたのがよくわかる。フィラデルフィア・フィリーズ=PHIは、NYY化しつつあるようだ。フロリダ・マーリンズ=FLAやピッツバーグ・パイレーツ=PITは、「白星単価」は低いが勝ち星も低いという「負け組」が続いていた。しかしPITは浮上の兆しが少し見えた。
OAKに代わる「マネーボール」を代表するチームは、間違いなくタンパベイ・レイズ=TBだ。2007年には完全な負け組だったが、そこから大きな投資をすることなく勝ち星だけを上げてきた。今季は他球団の草刈り場となって、多くの選手を失ったが、それでも91勝を挙げた。「白星単価」は堂々の一位だ。
このデータを見ると、本当の意味での「金満球団」は、NYYだけだということがわかる。他球団が同じような投資をしても、大抵大失敗に終わっている。金に糸目をつけないやり方は、本当の金持ちにしかできないのだろう。
1勝の価格は、毎年確実に値上がりしている。今では30球団平均で170万ドルに迫ろうとしている。
ビリー・ビーンGMは『マネーボール』が出版され、ベストセラーになったことを後悔しているかもしれない。彼のプランを多くの球団が、何がしか真似するようになったからだ。パイオニアとしては、『マネーボール2』が出版できるような考え方を打ちだすことが求められるだろう。

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