「応援団」の皆さんから反発必至でありながら、この議論を何度もするのは、スポーツマーケティングの中でも特殊な進化をしたプロ野球が、そろそろ曲がり角に来ていると思うからだ。

今、12球団はすべて「応援団」「ファンクラブ」をコアとした「応援をするファン」に対するマーケティングを行っている。それは、少し前に言った通り、ダイエー・ホークスの故高塚猛社長の発案で始まったものだ。球場に「中年、男性の野球マニア」ではなく「若者、女性、子供の野球をよく知らないファン」を呼び込むために、球場を「遊園地」のようにしたのだ。

この試みは功を奏した。もともとはMLBのマーケティングに倣ったものだが、ここに「集団で応援する」という日本独自の文化が相まって、球場全体が試合中に絶えず大音声を上げるスタイルが定着した。今、球場に来ているお客の大部分は、そうなってから足を運んだお客であり、それを楽しんでいる。

そうなる前から野球場に通っていた私のような古株は、それを苦々しく思っているが、それでも今の「応援一色のスタジアム」は仕方がないと割り切っている。特にパ・リーグ、昔は閑古鳥が鳴いていた球場がびっしり埋まっている。球場の施設は良くなったし、野球選手の数も増え、待遇も良くなった。これは野球ファンとしては、本当にうれしいことだ。だから、どんちゃん騒ぎが続いても「ま、仕方ないか」とは思っている。

IMG_0123


私が言いたいのは、ここから先の話である。
まず、各球団は今のように「全力応援をするファン」をコアとしたマーケティングに手詰まり感を覚えている。12球団は「よそがやっているプロモーションを横並びで真似をする」ことで、どんどんサービスを濃密にしてきた。今やどの球場でも、試合前から試合中、試合後までびっしりとイベントを組んで、お客の気を引いている。またさまざまな限定グッズを配布している。このコストはかなりのものだ。しかしながら、それでも一部の球団では観客動員が減少に転じている。また、動員率が90%を超えた球団は、これ以上の伸びしろがなくなりつつある。
こういうマーケティングは、間もなく飽和状態を迎えるはずなのだ。
つまり、球団はお客さんに対して、これ以上濃密なファンサービスはできなくなる。これは球団の広報や事業部の取材をしても、如実に感じることだ。

応援するのが楽しくて、いろんなファンサービスがあるのが楽しくて、球場に足を運んでいる人は、それがマンネリ化し、場合によってはサービスが少ししょぼくなったとしても、変わらず球場に足を運んでくれるのだろうか?これが一つの問いかけだ。

IMG_8683


二つ目は、ファンのすそ野が細りつつある問題だ。サッカーもプロ野球と同様、サポーターへのサービスに力を入れ、スタジアムを「遊園地化」している。しかし、サッカーは小学生以下のファンが減っていない。少子化の中、普及活動が功を奏して、少しずつではあるがお客は増えている。将来にわたって、サッカーファンが少子化以上のペースで先細りする心配は今のところない。
しかし野球は、小学生以下の年代では完全にマイナースポーツ化している。サッカーにはダブルスコア、トリプルスコアで負け、バスケットにさえ負けている。今後、野球を知っている子供=野球ファン予備軍は確実に減少する。
つまり、中長期の見通しに立てば、プロ野球の観客席は高齢化が進み、なおかつお客の数も減っていくはずだ。
「応援団各位」は、そうなっても、今と同じ熱心さでチーム、選手を応援してくれるのか?一般の客席がガラガラになっても、同じようにお金を落としてくれるのか?これが二つ目の問いかけだ。

ありていにいえば、私は「野球そのもの」へのロイヤリティではなく「応援することの楽しさ」「一杯のお客がいる球場で騒ぐことの楽しさ」で、球場に来ている人たちを全然信用していないのだ。

自分の贔屓球団以外の野球や、応援行為を禁じられた野球には洟も引っかけないようなお客さんを「上得意」として呼び込む今の球団の商法はあやういのではないか、と言いたいのだ。

コメントの中には「応援団はスポーツ進化形の過程だ」みたいなおめでたいものもあるが、今の球団経営陣はそんなふうには考えていない。この種のマーケティングは早晩頭打ちが来る。その時に向けて、どんな新しい手を考えるべきか、考え始めている。

野球場に毎日のように通って凄いエネルギーで応援するお客さんが「野球マニアではない」という、状況は、私には不自然に見える。そういう野球そのものへのロイヤリティがない人たちが、応援することに飽きて、消えてしまわないうちに、野球を心底好きな人を育てていくべきだと思っている。

実は昨日も子ども達に野球を好きになってもらうための地道な活動の取材をした。そのことはまた紹介するが、その現場にはNPBの普及担当者もいて、遅ればせながら裾野を広げる取り組みに力を入れていると語った。

今、私が応援団各位に言いたいのは「うるさくしてもいいから、それくらい我慢するから、もうちょっと飽きずに応援してくださいね」ということだ。

IMG_9019


kouryusen




そういえばチーム得点ってどうなりましたかね?|51試合終了時点



私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください!

好評発売中!