大谷翔平でさえ、例外ではなかった。日本人投手は、20代前半の若さで、すでに腕の靭帯が損傷している。爆弾を抱えた状態で、その後の野球人生を歩むことになるのだ。

NPBからMLBに移籍する投手は、入念なメディカルチェックを受ける。投手の場合、肩、肘の検査はとりわけ綿密に行われる。
日本の投手はほぼ全員、投げる方の腕の靭帯が、損傷している。完全に断裂していれば即、トミー・ジョン手術だが、そこまでいかなくても部分的な断裂が見られたり、靭帯が摩耗して細くなったり、変形したりしている。
大谷のようにその程度が軽く(ステージ1)、そのまま入団する場合もあるが、岩隈久志や和田毅のように、症状がやや重くて契約を見送られたり、公式戦で投げる前からDL入りするケースもある。

IMG_6691


そうした肘の損傷は、日本の場合、プロ以前のアマチュア野球で負うケースがほとんどだ。
特に高校野球は、過酷なスケジュールでのトーナメント戦であり、エース級の投手は、短い期間に集中的に球数を投げるため、靭帯を損傷することが多い。十代での登板過多は、二十代よりも肩、肘への負担が大きくなり、靭帯損傷につながることが多い。

IMG_7426


損傷した靭帯は、基本的には治らない。ノースローの期間をおくことで、炎症が消えたり、部分的に復旧が進むが、損傷した靭帯が新品同様になることはない。トミー・ジョン手術をしない限り、根治はあり得ない。
若い時に過酷な投球をすれば、そのダメージは選手生活が続く限り「爆弾」となってその投手を苦しめるのだ。

その予防策はただ一つ。体が未成熟で、フォームも固まっていない10代の時期に、過酷な投球を強いないことしかない。球数、登板間隔を管理するとともに、変化球なども制限しなければならない。

しかし、現実的には「甲子園」があるために、優秀な高校球児はほぼ全員が、靭帯損傷を招くような過酷な投球をすることになる。彼らは、野球選手として長く活躍することを望んでいるが、まだ十代のこの時期に深刻なダメージを受けることになるのだ。

過酷な甲子園のトーナメント戦を廃止しない限り、どんなに優秀な投手でも、MLBに渡るころには肘に深刻な損傷を抱えることになる。

高校野球は「教育の一環」だそうである。であれば、高校時代に学ぶこと、練習することは、将来に役立つものであるはずだ。しかし現実には、高校球児はわずか2年半の間に、急激に体を鍛え上げ、世界一過酷な「甲子園」という大会に勝ち抜くことを強いられる。その後のことは、甲子園が終わるまでは何も考えられない。

「甲子園」は、日本屈指のスポーツイベントであり、朝日新聞、毎日新聞、NHKなどのメディアにとっては非常においしいコンテンツになっている。阪神電鉄にとっても大きな収益だ。
しかし、そうしたビジネスが、才能ある高校生の「未来」を削ることで成り立っているという現実を大人たちはどう説明するのか?子どもを食い物にして「残酷ショー」を放映していることに、何の罪悪感もないのか?

IMG_5318


この図式は、今や多くの人が知っている。「それではいけない」と思っている。しかし、高校野球は抜本的な改革には乗り出していない。
「高校野球200年構想」では、ティーボールやいろいろな普及活動で、子どもに野球をさせようとしているが、そうして野球を始めた子供をこれまで通り「甲子園」という坩堝に叩き込んで、将来性を溶かしてしまうのなら、野球の未来など開けるはずがない。

愚かで、事なかれ主義で、自己保身に走る大人は、日本大学だけでなく、スポーツ界に盤踞していることを痛感する。

kouryusen




そういえばチーム得点ってどうなりましたかね?|51試合終了時点



私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください!

好評発売中!