アメリカで、投手の最も過酷な仕事は、MLBの救援投手だろう。162試合のうち、多ければ80試合以上も登板する。先発と違って登板日は決まっていないから、ほぼ毎日スタンバイすることになる。


連投や回またぎも頻繁にある。球数制限などない。そして結果が出なければ先ごろの田澤純一のようにマイナー落ち、DFAである。年俸は先発投手の数分の一だ。

次に過酷なのはMLBの先発投手だ。中4~5日で先発し、6回は投げなければならない。年間の登板数は35回前後、シーズン投球数は3000球を優に超す。指揮官は100球前後で降ろすことがあるが、球数制限があるわけではない。だから110球、120球と投げる投手もいる。

マイナーは、先発、救援ともに投手を酷使することはない。MLBに人材を供給するのが第一の存在意義だから、マイナーで投手をつぶしてしまえば元も子もない。下部のリーグでは球数制限がある。特に若い投手は大事に扱われる。

大学、高校レベルでは、投手が酷使されることは絶対にない。登板間隔、球数制限は非常に厳格で、コーチは投手の健康状態に目を配る。

さらにリトルリーグなど少年野球のレベルでは、そもそも「投手専業」を設けないことも多い。投げ方よりも「怪我をしない野球の仕方」を身につける方が重要視される。

最近は有望な子供をピックアップし、プロのスカウトの前で90マイルを超えるような球を見せるブローカーまがいが横行し、そういう有望選手を集めた大会も開かれている。

その点は、問題なしとはしないが、基本的にアメリカの投手は上のレベルに行くほどハードな環境で投げることになっている。
MLBで投げる投手はすでに成人であり、過酷な環境で投げることも自己の判断、責任で行っている。そういう判断が未熟なより下のレベルの投手には、指導者や周囲が十分にケアをしているのだ。

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日本では、投手にとって最も過酷な環境は、間違いなく高校野球だ。短期間で集中的に一戦必勝の試合が組まれ、エース級の投手はそこに投入される。球数制限も登板間隔の制限もない。そういうものを設定したくても、大会スケジュールがそれを許さない。

次に過酷な環境は、硬式少年野球だ。リトルシニア、ボーイズなど有力な少年野球では、年間に何試合もトーナメント戦が設けられる。日程の都合で1日2試合などの過密スケジュールもある。そんな中でまだ十代前半の投手が投げる。少年野球はボールをカウントしていないことが多いので、球数制限ではなくイニングの制限を設けてはいる。しかし四球や失策が絡めば、5回で100球をはるかに超えることも珍しくない。こどもたちはそういう環境で投げる。
硬式少年野球は「高校野球の予備校」だから、そうした過酷な環境で投げるのは、良い経験だと思っている指導者もいる。

プロ野球はその次に来る。先発投手はMLBよりも広い中6日の環境で投げる。球数は100球を越すことも珍しくないが、それでも登板間隔が広いから、リスクは軽減される。シーズンの登板は28回ほど。球数が3000球を越すことはほとんどない。
救援投手はNPBでも60試合、70試合と投げる。その点ではMLBと大差ないが、試合数が19試合も少ない上に、延長戦も12回までになっている。移動距離もMLBと比べればはるかに少ない。

ファームでは、MLB同様の理由で投手を酷使することはない。ファームでの完投はレアケースだ。そもそも好成績を挙げれば上に上げられるから、ファームで過酷なスケジュールで投げることはない。

大学野球も高校野球に比べればはるかに楽な環境だ。公式戦は春秋、週末の2日だけ。年間最大で30試合程度。そして部員数は高校よりもはるかに多い。もちろん登板過多を強いる指導者もいるが、全体としては投手の酷使は少ない。
社会人も同様だ。社会人野球はプロを目指す投手も多いので、過酷な登板は行われない。

こうした図式は、高校野球から大学、プロ、社会人へ進んだ選手が一様に「練習が楽で驚いた」「投げ込みが少なくて驚いた」ということからもわかる。

日米の投手が置かれたレベルごとの環境を見える化するとこうなるだろう。

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アメリカが選手の成長、技量の発達に伴ってハードな環境に挑戦することができる構造になっているのに対し、日本は野球を始めて間なしの十代の頃に、最も過酷な環境で野球をすることを強いられる。この段階で多くの有望な選手が健康被害を起こして野球を断念している。また、辛うじて生き延びても、昨日の大谷翔平のように、肘などに深刻な損傷を負っていることも多い。

高校野球がかくも過酷な環境になっているのは、ひとえに「甲子園」があるからだ。ここで活躍することが、すべての球児と指導者の目標になっているために、健康被害を顧みずハードな練習をしてしまうのだ。

野球界にとって「甲子園」は、最大の阻害要因だ。今年は「高校野球100年」であり、例年以上のバカ騒ぎが起こるだろうが、メディアや、能天気な野球ファンは、それが「ばんざーい!」といって特攻隊を死地に送り出すのとあまり変わらない行為であることを自覚しているのだろうか?

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そういえばチーム得点ってどうなりましたかね?|51試合終了時点



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