yakyuhiji


たまたまYkyuikuに「野球肘ガイドブック」と言う専門書の紹介コラムを書いた直後でもあるので「お前は最初から結論ありきで甲子園を悪者にしていないか」というコメントに反論しておく。近々アップされるはずだ。
基本的に、肩、肘の損傷は、以下の5つのリスクが原因で起こる。

1.多くの球数を投げる
2.全力投球する
3.スライダーなど変化球を投げる
4.短い登板間隔で投げる
5.肘に負担をかける誤ったフォームで投げる


実際にはこれらのリスクが複合的に絡まって起こる。
5のフォームの問題は、指導者によって矯正が可能なリスクだが、他の4つはそうではない。いくら正しいフォームで投げても、1~4のリスクにさらされていては、肩、肘の損傷の可能性は高まる。

そして、発達段階である10代の子供の時代にこうしたリスクのある投球をすると、故障する可能性は高まる。故障の中には、回復可能なものもあるが、不可能なものもある。靭帯の損傷は基本的には回復不可能だ。

少年野球のレベルでは1~4の投球リスクは絶対に避けるべきだが、実際には日本では1~4が常態化している。
それは「甲子園」とそれにつながる高校野球が、こうした投球を強いる仕組みになっているからだ。
つまり過密日程のトーナメントで、1戦必勝という高校野球のスタイルが前提になっている、中学生以下の少年野球も「ミニ甲子園大会」になっているのだ。

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そこで優秀な投手は勝つための、1~4のリスクを冒す。5については指導される場合も、されない場合もある。

少年野球の段階でずば抜けた能力を持つ野球少年のかなり多くが、肘や肩の故障を発症し、野球を断念している。高校野球に進むのは、才能を発見されるのが遅くて消耗が少なかった子ども、そして酷使しても肩、肘の消耗が少ない体質をもともと持っていた子どもだ。

1~4のことをすれば、全員が投げられなくなってしまうのなら、誰もこんなことを教え込んだりしない。子どもには個人差があって、ハードに投げさせても生き残る子がいるから、それが基準になるのだ。

しかし消耗が少ない体質の子も、高校野球で激しい投球をすれば、確実に損傷は深まる。いわば「どこまで持つか」の競争を経て、その勝者がプロに入っている。

プロ入りしてからも、故障で投げられなくなる投手はいるが、そうでない投手もいる。これはなぜか?
NPBの投手起用が、高校野球よりもはるかに緩いからだ。また体のケアも入念に行うから、故障のリスクは高校時代よりも小さくなるのだ。また正しい投法をここで学ぶことも多い。

しかし高校時代に受けた損傷は、依然として残っている。特に靭帯の損傷は自然治癒しない。甲子園で活躍した投手は、いつ靭帯断裂してもおかしくない状態で投げている。これはNPBも同様だ。

だからMLBに移籍する投手は、球団から事前に入念なメディカルチェックを受ける。そしてほとんどの投手が「グレード1」程度の損傷があると認定される。この損傷は、NPB時代ではなく、それ以前の高校野球のときのもの、という見方が強い。なぜなら高校時代の方がはるかに過酷な環境で投げているからだ。

MLBは、NPBよりもハードな環境だ。登板間隔は短く、試合数は多い。先発投手でいえばNPBではほとんどいない「シーズン3000球」が「スターターの最低限の責任」になる。
そういうハードな環境で、もともと靭帯に古傷があるNPB出身の投手が持ちこたえられるのか、MLB関係者は常に心配している。

もちろんアメリカの選手も1~5の理由によって靭帯損傷してトミー・ジョン手術を受ける。しかし十代の段階で肩、肘に損傷を負っている率は、日本とは比較にならないほど小さい。

慶友整形外科病院古島医師は、ドミニカ共和国でこういう調査をしている。

142人の野球少年は、ほとんど傷ついていなかった

「甲子園」がないドミニカにもアメリカにも、十代の少年に肩肘をここまで酷使させるような野球の大会はない。

アメリカでの肩、肘の損傷は主として5.のフォームに起因するケースが多い。
黒田博樹はヤンキース時代に、同僚の若い投手に「怪我をしない投げ方」を伝授した。アメリカでは選手の「師弟関係」が希薄なため、投手コーチからしっかり投法を学ぶことが少ない。また別の問題が存在するのは事実だが。

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大谷翔平も甲子園に出場している。過酷な高校生活を送っている。肘の損傷があることは入団時にわかっていた。すでにグレード1の認定を受けて、昨年のうちに最初のPRP治療を受けている。
それらの負担が、NPBに入団してからのものと見る専門家はほとんどいない。

日本ハムで大谷が最も多くの回を投げたのは2015年の160回、投球数はリーグ10位の2462球に過ぎなかった。
しかし大谷は高校時代は、他の投手に比べて特別に過酷ではないにせよ、連投や登板過多を繰り返していた。この時期に肘を損傷した可能性は高い。

NHKが、このことを指摘しなかったのは、日本の野球界の問題点を明らかにしなかったという点で本当に残念だと思った次第だ。

この問題意識は、全国の指導者が共有するようになっている。そのことを認識いただければと思う。




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