シーズン中も何度もイチローの異変については取り上げてきたが、シーズン終了に伴い、改めてデータで追いかけておきたい。
私が一番懸念しているのは、「走攻守」では、「守」である。イチローの最大の魅力は何か、と聞かれれば「エリア51」での、彼の守備だと答える。彼はダイビングキャッチをあまりしない。いつもすり足で落下地点に到達し、簡単そうに捕球する。フェンス際だろうと、ファウルエリアだろうと、イチローは常に何%かの余裕があったように思う。それが守備を優雅に見せている。しかし走者がいるときには一変し、捕球前から前傾姿勢になって力を前掛かりにためて、捕球するや否や必殺のレーザービームを投じる。胸が空くとはこういうプレーだ。
しかしながら、今年は集中力を欠いたようなプレーがしばしば見られた。捕球の姿勢が不安定だったり、判断ミスがあったり。
ショッキングだったのは、守備範囲を示すRF(レンジファクター)の数値も、正確性を示すZR(ゾーンレイティング)も、アリーグの主要右翼手の中で最下位だったこと。
これは本当にイチローの守備の衰えを表しているのか、それとも他の要因もからんでいるのか。もう少し数字で検証してみることにした。
シアトル・マリナーズ=SEAの外野守備機会=TCにしめるイチローのTCの割合(TC%)。






イチローは2006~8年に中堅を守った時期がある。この時期のTC%は当然上がるので除外しなければならない。右翼手イチローは例年SEAの外野に飛ぶ打球の30%少しを処理してきた。しかし、2011年はその数字が27.7%とはじめて30%を切っている。外野へ飛ぶ打球の3個に1個程度を処理してきたのが、今年は4個に1個強に減っている。この数字はやはり、何かがあったことを意味している。TCそのものも、376から285へと91回も減っている。イチローも実感として「今年の守備は暇だったな」と思ったのではないか。
SEA全体の外野TCも1226から1108へと108回減っている。ほとんど、イチローのTCが減った分が、そのままスライドしたような感じだ。
本当にイチローの守備は衰えたのか。それとも他の要因も働いてTCが減ったのか?もし、イチローの守備範囲が狭くなったためにTCが減ったのだとすれば、それは安打になっているはずだ。今年の被安打がその分増えているはずだ。しかしSEAの被安打は、2010年の1402本から2011年は1369本と33本減っている。断定はできないが、イチローの守備範囲は数字ほどは狭くなっていないと思われる。守備範囲を示すRF(レンジファクター)という数値は欠陥が多いとされるが、この数字が下がった時に、①野手の守備範囲が狭くなったのか、②打球の数が減ったのか、わからないことも大きな欠陥だ。
理由はよくわからないが、今季のSEAは右翼への打球が少なかったようなのだ。昨年、SEAの左投手が投げたイニング数は553.1回、全体の38.5%あったのが、今年は424回、29.5%に大きく減少している。このことが影響しているのかもしれない。
一方で、エラーとアシスト(捕殺=飛球を捕って塁上の走者を刺したアウト)の内訳をみると、衰えの兆候は見られない。

ichiro2011-fieldingu-01


エラーの数も内容も大きな変化はない。アシストでは、今年一塁で走者を2度刺している。機敏さも十分見せている。
イチローの守備は見た目の印象ほど衰えていない、と断定することはできないが、それほど心配することはないかもしれない。今年のゴールドグラブ賞の選考でどんな結果が出るか注目したい。

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