田澤純一のMLBへの直接移籍に対して、NPB側がいかに危機感を抱いたかは「中」で説明した。つまり、田澤が成功すれば、日本の有望選手が直接MLBに渡るルートができてしまうのだ。

野茂英雄以来、パイオニアの後に続く選手が出るパターンが定着し、野球選手のキャリアプランは大きく変わってしまった。しかし、これまではNPB経由でMLBに選手が行くことで、NPBは人材流出を最小限にくいとめることができていた。田澤がパイオニアになることによってキャリアプランがさらに変化することをNPBは怖れたのだ。
では、この田沢ルールは、何が問題なのだろうか?

日刊スポーツ 田沢ルール
「日本のドラフトを拒否して直接海外挑戦した選手は、日本に戻っても高校出身は3年間、大学・社会人出身は2年間、ドラフトで指名できない」と制限を設け、12球団申し合わせ事項として承認。同年10月のドラフトから導入し、田沢に適用された。

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一つには、日米のプロ球界の摩擦を選手に押し付けていると言う点がある。本来ならば協定を結ぶなり、何らかのルール化をして解決すべきところを、すべて選手に帰する形にしている。
ドラフト制度も「自分が行きたい球団に行けない」という点では、職業選択の自由を奪っているという解釈は可能だが、この制度は「野球をする」自由は奪っていない。選手は希望する球団以外でプレーすることは可能なのだ。しかし田沢ルールは、選手をみせしめのために「野球ができない」境遇に落とす。現役生活が10数年しかない選手にとって2年、3年を空費することは、まさに選手生活の危機である。これはあまりにも酷な措置だと言えるだろう。

二つ目には、田沢ルールは日本のアマチュア選手をNPBに引き留める決め手にはならないということだ。日本のアマチュア選手がアメリカの野球界で骨をうずめる覚悟をすれば、田沢ルールは何の効果もない。アメリカには指導者など日本よりもはるかに多くの「野球で食っていく」道がある。腹をくくればせせこましくて視野の狭い日本球界に戻るよりも可能性は拡がるかもしれない。田澤純一もそうする可能性はあるだろう。

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三つ目には、ドラフト制度と異なり、アマチュア野球界や野球ファンにとって「良い制度」をはいえないことだ。
前述したようにドラフト制度の導入によって、アマ球界も無法な人材流出が少なくなり、アマからプロへのルートができた。ファンも、多くの球団が優勝争いに加わることによって、プロ野球の興趣が深まった。もちろん「巨人が勝てなくなってつまらない」というファンもいるだろうが、そういうファンをはるかに凌駕する野球ファンが、ドラフトによる戦力均衡を評価している。
しかし田沢ルールは「優秀な野球選手の将来を奪う」ものであり、ファンにはメリットはない。「日本のプロ野球を守るためには必要だ」というファンもいるだろうが、張本勲じゃあるまいし、頼まれもしないのにNPBサイドの思いを忖度するのは、間抜けな話だと思う。
野球ファンの多くは、日本からの野球選手の人材流出を、歓迎こそすれ、危機感など持ってはいない。日本よりも華やかな舞台で、強大な選手に交じって日本人選手が活躍するのを見るのは快事以外の何物でもない。
田沢ルールによって、日本人アマ選手がMLBへの挑戦に二の足を踏むようになるのは、多くの野球ファンにとって歓迎されざることである。

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ドラフト制度が野球界全体の幸福のために、ベストではないにしてもベターな選択だとすれば、田沢ルールは、NPBが人材流出を食い止めるためにとった糊塗策であり、将来性も正当性もない愚策だ。

私がMLBをウォッチし始めたのはネットでMLBをオンタイムで知ることができるようになった、ここ20年ほどのことだが、この間にMLBはめまぐるしく変化している。彼らは時代の変化に対応して動くのではなく、自分たちから現体制を変えていく。競合する北米四大スポーツに対抗するため、そしてより大きなビジネスチャンスを求めるために、一瞬たりともじっとしていない感じだ。

確かに日本もここ20年ほど、劇的な変化はあったが経済規模はほとんど変わっていない。時代の変化に応じてはいるが、全体としては旧態依然としている。
日本は、何らかのステイタスを得るとそれを守ろうとする習性が強いが、そういう後ろ向きの姿勢がNPBにも色濃くある。

NPBとMLBの経済格差、そしてビジネスマインドの差を考えても、NPBはMLBのライバルではない。どちらかと言えば業務提携をして実質的に傘下に入るべき関係だ。
かつてMLBは、メキシコやドミニカ共和国などで人気があった国内リーグをすべて手中に収めたうえで、マイナー化し、植民地のように人材供給源にした。
しかし日本は経済規模が大きい上に、経営、マネジメント能力も高い。そうはならないだろう。MLBとNPBが手を組めば、人材交流も活発になり、興行的にも大きくなると思う。

そうなれば「田沢ルールって何?」ということになるだろう。

とにかく「田沢ルール」はせこい。自分たちの無能と意気地のなさを露呈しているようでみっともない。さっさと撤廃すべきだ。




2012~14年中後悠平、全登板成績



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