高野連の八田英二会長は、2016年のインタビューで「最後まで投げて燃え尽きたいという子もいる」とこれを肯定的に語っていた。それが下敷きにあったうえでの「金足農はお手本」ということなのだと思う。しかし、今後の高校野球改革を考えるならば「甲子園で燃え尽きてもいい」を論破し、超克しなければならない。
「甲子園という高校野球の聖地で、全力投球できるのならば、そのあと野球が続けられなくてもいい。その試合で選手生活が終わってもいい」
という考え方は、一部の野球ファンの熱狂的に支持されている。それこそが甲子園の「究極のドラマ」であるかのように思われている。しかし、これはほとんど「虚構」といっても良い話だ。

まず、登板前にそう思っている選手はほとんどいないということだ。登板過多が続き、これ以上投げたら健康被害が出るかもしれないというタイミングでも、ほとんどの投手が投げることを志願するのは「壊れても構わない」と考えているからではない。「自分は大丈夫なのではないか」と思っているからだ。

登板過多による健康被害には、不可逆的なものとそうでないものがある。またレントゲン的に目視が可能なものと、触診などで分かるものがある。
レントゲンで骨の異常が発見されるようなケースは、そもそも痛くて投げられない。それを押して投げれば、不可逆的な故障を負うことが多い。1991年の沖縄水産の大野倫はまさにこのケースだった。責任感の強い大野はそれでも決勝戦で投げて、右ひじの疲労骨折をして、投手生命を絶たれた。このケースは監督に「お前と心中する」と言われたことで、故障を覚悟してマウンドに上がった。彼の場合は「燃え尽きても本望」と思っていただろう。これはレアケースだ。

同様のケースは、もう一例あった。1995年の今治西、藤井秀悟だ。彼はベスト16の甲子園での検診で重篤な靭帯損傷が発見された。すでに痛みがあり、登板が厳しい状況だった。医師はドクターストップをかけた。監督は「お前と心中する」とは言わず、将来有望な投手だったこともあり、登板を断念した。甲子園で燃え尽きることが阻止された、レアなケースだ。

以降の登板過多のケースは、いずれもレントゲン的な異常ではなく、触診で炎症や筋肉の疲労が見つかったケースだ。炎症がひどくなれば筋肉の断裂などのリスクが高まる。疲労が蓄積すれば正しいフォームで投げられなくなり、怪我のリスクが高まる。
今回の金足農の吉田や済美の山口もこういう状態だったはずだ。医師は懸念を表明するが、ドクターストップはかけない。投手自身もリスクはある程度承知しているが「今後投げられなくなることはないだろう」と思っている。投げられなくなった投手の例は見聞きしていても「自分だけは大丈夫だろう」と思っている。

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そういう状況で投げるのだ。
ただ、専門家はこういう状態で投げることで、筋肉や靭帯が損傷すると「投球のレベルが落ちる」可能性も指摘している。
甲子園で登板過多をした投手は、ほぼすべてが以後の投球のパフォーマンスが低下している。甲子園に出場しなかった投手、甲子園に出てもそんなに投げなかった投手に比べて、その後の野球生活の「質」は落ちる場合が非常に多い。

もし、医師や指導者が「このあと、こんな速い球は投げられなくなるかもしれないぞ」とか「鋭いスライダーはもうなくなるぞ」といっていたら、投手の考え方も変わったかもしれない。
しかし、それは確実にそうなる、とは断言できないものであるため、アドバイスは十分にされることはない。だから「恐らく大丈夫だろう」と登板を重ねるのだ。

結局「燃え尽きても本望」と言う言葉は、大野倫などレアなケースを除いて、ほんとが「後の祭り」になった時点で当事者が口にするのだ。

私は今回、夏の大会で700球以上投げた投手のコメントを調べたが、登板の直前、直後に「燃え尽きてもいい」といっている投手は一人もいなかった。
金足農の吉田も昨日「巨人に行きたい」と希望を語ったが、まだ現時点の彼は、自分に身に今後どんな異状が起こるのかを予想できていないのだ。

斎藤佑樹、安樂智大など登板過多の投手は、プロ入りして高いレベルで投げる中で、パフォーマンスの低下が顕著になった。

それに気が付いたときに「甲子園で頑張ることができたから、今、こんなボールしか投げられなくても構わない」という投手は果たしているのだろうか?

「甲子園で燃え尽きても構わない」という言葉が投手本人から出る場合は、取り返しのつかない事態になってから、本人が自らを慰めるために発する言葉だ。
それは悲しい言葉だ。「そうだね」と言ってあげるしかないが、基本的にそういうことはあってはならないと思う。

そしてその言葉を当事者でもないのに軽々しく口にする人は、戦前、出征兵士に「お国のために死んで来い」と声をかけるのと同じくらい、無神経で、無責任な人だと言っていいだろう。

才能に恵まれて、野球選手になって、18歳で野球生命が断たれても構わないと本心から思っている若者など一人もいない。

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1967年板東英二、全登板成績【3年連続リリーフで2ケタ勝利】

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