大坂なおみが日本人なのか、そうでないのかという問題は、実は「日本人が自分たちをどう思っているか」という「鏡」のような問題だ。大坂なおみ自身は「私は私」と言っている。彼女は国籍以前のアイデンティティという次元で自己を確立させているのだ。

問題は、大坂なおみという、見方によってアフリカ系ともアジア系とも見える、そして日本人の名前を持ったアスリートに対して、多くの日本人が心にゆらぎを感じているということなのだ。

よく日本の保守系の政治家は「日本は単一民族だ」ということを誇らしげに言う。このあいだも麻生太郎が「日本はG7で唯一の有色人種」といった。日本は圧倒的にアジア系が多いとはいえ、日本国籍の白人も黒人もいる。そういうマイノリティを無視して、こんなことを言うのだ。教養人吉田茂の孫とは思えない馬鹿っぷりだ。南アフリカで「名誉白人」の称号を得て喜んでいた日本人商社マンと同じような醜悪さだ。

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「単一民族」という幻影を信じる馬鹿な日本人にとって、大坂は「日本民族の優秀性」の例示になるのか、ならないのか、微妙なところにいる。できれば「日本人の優秀性を証明する存在」であってほしい。だから日本人としてのアイデンティティを無理からにでも穿り出そうとするのだ。

しかしことスポーツ界にスポットを当てれば、日本のトップアスリートはそもそも、日本人であるかどうかも判断が付きかねる人々によって形成されてきたのだ。
大相撲の最多優勝回数は、モンゴル出身の白鵬だ、それまでは白系ロシア人との混血の大鵬が持っていた。
プロ野球の最多本塁打と打点の記録は、中国大陸出身の中国人と日本人の混血の王貞治、安打数は在日韓国人の張本勲、最多勝は在日朝鮮人(日本に帰化)の金田正一、平成になってからの最多安打も在日韓国人の金本知憲、そのほか、プロ野球を代表する選手の中には、外国人選手以外に公表、非公表を問わず、非常に多くの「日本以外の血が混じった」人が含まれている。

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なぜなのか?それは日本社会に根強い差別が存在したからだ。「在日」の烙印を押されたアジア系の人は、いくら頭が良くても、勉強をしていい大学を出ても、日本社会の中枢を担う企業には絶対に就職できなかった。
昭和の時代、私は大阪市内の高校に通っていた。もう時効だから言うが鶴橋の安い飲み屋にも出入りした。そういう飲み屋で管を巻いている日雇い労働者の中には、京都大学卒業という人もいたのだ。もちろん「在日」だ。彼らは就職差別にあって、優秀な頭脳を生かさずに場末にくすぶっていたのだ。

芸能界とスポーツ界は、数少ないそういう差別とは無縁な実力の世界だった。なぜなら、芸能界、スポーツ界がそもそも「差別の対象」であって、まともな人間が行く世界ではないと思われていたからだ。

だから芸能界、スポーツ界には「在日」や部落出身など差別されてきた人がたくさんいるのだ。私は上方落語協会という団体にいて、彼らの経歴書を管理していたが、誰でも知っている落語家の中にも「この職業にしかつけなかった」人がたくさんいた。そういう風な社会だったのだ。日本は。

日本には、その会社、団体に就職できれば、あとは一生安樂に生きていくことができるようなステイタスのある仕事が、いまだにたくさんある。今は少し変化しつつあるが、もともとそういう仕事は、おかしな血が混ざっていない、変なところで生まれていない、まっとうな人々のものだった。そういうエスタブリッシュメントの世界があって、その対比として、スポーツ界や芸能界などがあったのだ。

そんな日本社会が、今になって、大坂なおみにねこなで声で「君は日本人だよね」あるいは「日本人と認めてあげるよ」と言っているのだ。大坂の家族は、日本の親族の偏見に耐えかねてアメリカに移住したのに。
NewsWeek
大坂なおみフィーバーは日本の人種差別を変えるか

今、大坂にくだらない質問を浴びせかけているメディアは「あなたはハイチとか変な国の人ではなくて、黒人でもなくて、日本人ですよね」と念押しをしている。意識はしていないが濃厚なレイシズムを身にまとっているのだ。

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大坂なおみは今、アメリカと日本の二重国籍だ。アメリカではそのままでもいいが、日本では成人すればいずれかの国籍を選択しなければならない。

彼女は心優しいし、センシティブだから悩むと思うが、こんなつまらない日本社会に気兼ねする必要は全くない。厳然とした階層が存在してはいるが、実力さえあればあなたのことを肌の色や言葉遣いや、両親の人種で差別しなかった、もう一つの国の国籍を選択すればいいのだと思う。


20失点以上記録チーム

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