NPB屈指の名二塁手であることは疑問の余地がない。しかし私の田中についての印象は「勘違い男」という一語に尽きる。
東福岡高からドラフト2位で日ハムに。俊足好打の内野手として大いに注目された存在ではあった。

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キャリアSTATS

Kensuke Tanaka


当初は守備はプロレベルに達していないと言われたが、次第に上達。つなぎの打者、守備の要として日ハムになくてはならない存在になった。
金子誠との二遊間は派手さはないが堅実だった。

田中は日本的な「チームワークを重視する野球」にあって重要なピースの一つという印象だった。
個人の能力が優先されるMLBの野球からは最も遠いグループに属すると思われたが、2013年にMLBに挑戦した。

田中は何を考えていたのだろうか?NPB流のつなぐ野球、犠打や走者を送る打撃を重視する野球が、MLBにも存在すると思っていたのだろうか?
そもそも長打がなく、打率的にも平凡な選手は、MLBではレギュラーに定着できない。その上人工芝限定の「守備の名手」は、MLBでは通用せず、外野にまわされるありさまだった。
これまでの野球を180度変えるくらいの決意がなければ田中クラスの選手がMLBに挑戦しても意味がないことは、自明のことだったが、田中は2年間を空費した。

しかし日ハムにとって田中は不可欠な存在だったのだろう。復帰後、何もなかったかのように正位置に戻った。そして37歳になり、フェードアウトの時期を迎えた。

この時期になぜ「来年いっぱいでやめます」と言ったのか。これ、NPBではほとんどはじめてではないか。
MLBでは「来季限りでやめる」というのが流行っている。2012年のブレーブス、チッパー・ジョーンズ、2014年のヤンキース、デレク・ジーター、2017年のレッドソックス、デビッド・オルティーズなどがそうだ。2019年のヤンキース、CCサバシアもそうだという報もある。
これらの選手は、MLBを代表する大選手であり、チッパーのように殿堂入りの可能性も十分にある。彼らは、引退を表明することでチームにその後の準備を促すとともに、ストーブリーグの混乱を回避し、ファンにも十分な「惜別の時間」を与えたのだ。

個人的にはこういう風潮は気に入らない。どんな名選手、大選手でも力が衰えたらさっさとやめるべきだと思う。演出過剰だと思うが、ま、スーパースターならば仕方がないとも思う。

しかし田中はそういう選手ではないでしょう。長期にわたりレギュラーを務めた名選手ではあったが、タイトルもないし、殿堂入りの可能性はまずないし、普通の選手ではなかったか。

「迷惑をかけたくないから」と言ったそうだが、来季末に田中が「やめます」ということで、誰に迷惑がかかるのだろうか。

「僕が辞めるとファンが残念がるだろうから、お別れの時間をたっぷりと作ってあげよう」という心遣いなのかもしれないが、それもまた勘違いではないか。カラオケで自分で入れた「マイウェイ」を熱唱して一人で涙しているおっさんのような格好悪さを感じるのだが。

こういう自意識過剰が最近のNPBには蔓延している。「承認欲求」が充満している最近の日本社会を象徴しているのかもしれないが、野球で身過ぎ世過ぎをすることを美化しすぎている。田中賢介に恨みはないし、いい選手だったとは思うが、辞めても「誰も迷惑なんかしない」と敢えて言っておきたい。


広島総合・広島市民・マツダS・シーズン最多本塁打打者/1950~1986、2007~2018

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