私と同郷のたたき上げライター氏は、昨日深夜、東京ドームホテルでのイチローの記者会見に集まった300人のメディアの「俄か」ぶりに激怒したそうである。
世に「秘すれば花」「言わぬが花」という。口に出して易々と「愛している」「尊敬している」と平気で言う輩はまず疑ってかかったほうがいい。日本のメディアは、そんな人間ばかりのようだ。
しかし彼らは、自分たちの軽薄さ、不誠実さに気がついていない。いいことをしていると信じて疑わない。
だから取材対象にも同じように言ってもらいたいと思う。取材対象がまともな人間であればもつであろう奥ゆかしさや、恥じらい、謙譲の美徳を踏みにじって「さあ、俺たちが求める“いい言葉”“おいしい言葉”をお前の口から言ってくれ」と迫るのだ。
日本の大手メディアのインタビューとは、おおむねこういうものである。
かの叩き上げライター氏がぶちきれたのは、そういうことしか質問しない大手メディアが、いつもは顔を出すこともないのに、大きな顔でのさばっていたからである。彼らが日本人の精神をどれだけ汚染しているのかを考えると、わたしはしばしば暗然となる。
イチローの記者会見は80分に及んだという。内容はフルカウントで公表されている。その中には腹立たしいやり取りもあるが、イチローに対しては誰もが満腔の敬意を表していただろうから、おかしなものは少なかった。
ひどかったのはヒーローインタビューである。被害者はまたしてもディー・ゴードン。昨日、殊勲打を上げた。そもそもMLBにはヒーローインタビューはない。大観衆を前に感想を聞かれることが異例だ。
彼は17日の巨人戦でもヒーローインタビューを受けていたが「イチロー選手を尊敬しているディー・ゴードン選手」という触書だった。私は本当に恥ずかしく思ったが、昨日、またしても「イチロー選手を尊敬している」と紹介された。
そして彼の殊勲打の話はそこそこに「お前はどれだけイチローを尊敬しているのか」「日本でイチローの引退試合に出ることができてどう思うか」「日本のファンをどう思うか」を矢継ぎ早に聞いたのだ。「ただのやめそこないのじじいだぜ」「俺にとっては162試合のうちの1試合に過ぎない」「うるさくて、野球に集中できなかったぜ」とでも言えば痛快だったのだが、そこは殊勝なコメントをしていた。
ディー・ゴードンは試合終了直後、イチローに深々とお辞儀をしていた。目は潤み、感動の面持ちだった。彼がイチローを尊敬しているのは本当のことだろう。しかし自分の心の奥底にしまいこみたい感動や感傷を、いきなり万余の観衆の前でさらけ出される恥ずかしさ。ある意味で屈辱だっただろう。また通訳の女性の臭いこと。べらべらと気の利きすぎたべんちゃらを並び立てた。
残念なことに、東京ドームの観衆は、受け答えのたびに大声援をあげた。こういう「作り物」の感動に、感覚が麻痺した人がたくさんいるのだ。声の大きいほう、表現の派手なほうになびく日本人が、今、非常に増えている。
しばらくは「イチローフィーバー」が続くだろう。しかしその大部分は一過性のものであり、メディアはブームが終われば、次の餌食を求めて移動するだろう。
情けないことだが、これが今の日本の「品性」である。
2018年鈴木博志、全登板成績
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しかし彼らは、自分たちの軽薄さ、不誠実さに気がついていない。いいことをしていると信じて疑わない。
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イチローの記者会見は80分に及んだという。内容はフルカウントで公表されている。その中には腹立たしいやり取りもあるが、イチローに対しては誰もが満腔の敬意を表していただろうから、おかしなものは少なかった。
ひどかったのはヒーローインタビューである。被害者はまたしてもディー・ゴードン。昨日、殊勲打を上げた。そもそもMLBにはヒーローインタビューはない。大観衆を前に感想を聞かれることが異例だ。
彼は17日の巨人戦でもヒーローインタビューを受けていたが「イチロー選手を尊敬しているディー・ゴードン選手」という触書だった。私は本当に恥ずかしく思ったが、昨日、またしても「イチロー選手を尊敬している」と紹介された。
そして彼の殊勲打の話はそこそこに「お前はどれだけイチローを尊敬しているのか」「日本でイチローの引退試合に出ることができてどう思うか」「日本のファンをどう思うか」を矢継ぎ早に聞いたのだ。「ただのやめそこないのじじいだぜ」「俺にとっては162試合のうちの1試合に過ぎない」「うるさくて、野球に集中できなかったぜ」とでも言えば痛快だったのだが、そこは殊勝なコメントをしていた。
ディー・ゴードンは試合終了直後、イチローに深々とお辞儀をしていた。目は潤み、感動の面持ちだった。彼がイチローを尊敬しているのは本当のことだろう。しかし自分の心の奥底にしまいこみたい感動や感傷を、いきなり万余の観衆の前でさらけ出される恥ずかしさ。ある意味で屈辱だっただろう。また通訳の女性の臭いこと。べらべらと気の利きすぎたべんちゃらを並び立てた。
残念なことに、東京ドームの観衆は、受け答えのたびに大声援をあげた。こういう「作り物」の感動に、感覚が麻痺した人がたくさんいるのだ。声の大きいほう、表現の派手なほうになびく日本人が、今、非常に増えている。
しばらくは「イチローフィーバー」が続くだろう。しかしその大部分は一過性のものであり、メディアはブームが終われば、次の餌食を求めて移動するだろう。
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イチローが登場すると通路の最前列に走り出して携帯カメラで撮影し、警備員に注意され引き上げる輩が続出しました。
私が確認できたのは3人がプレスパスを首にかけていました。
また、ネット裏中央12列目ほどにカメラマンや記者用の観客席が用意されていましたが、イチロー登場時に携帯カメラで(おそらく私的に)撮影するペン記者が複数いました。
立ち上がったり、身を乗り出すため、後方の一般客が迷惑そうにしていました。
その中には、球数制限などを巡り高野連に批判的な本を出し、当コラムで好意的に取り上げられていたライターもいました。
総じてメディアの質、一見まともそうな連中を含めた質の低さ、公私混同ぶりに呆れた次第です。
baseballstats
がしました