大みそかは「絶対に笑ってはいけない」を見ながら原稿を書くのが恒例になっている。「紅白」は長いこと見ていなかったが「美空ひばり ai」が話題になっているのであとからyoutubeで見た。

ステージにぽっと白い姿が浮かび上がった瞬間に怖気が出た。のっぺりとした顔も作り物の声も、全く受け入れられなかった。それ以上に不気味だったのは、オーバーラップさせた涙する年寄りの画像だった。いくら耄碌しても、こんなフェイクで泣くのか、と思った。天童よしみは、NHKに忖度して泣いたのだと思うが。
今回の「紅白」は、まだCGやaiが「作り物の禍々しさ」のレベルだったから違和感を覚えたが、本当に怖いのは、この「違和感」がなくなるときだろう。誰が見ても「本物」と思えるようになったときに、我々はメディアに篭絡されるだろう。秋元康という危険な人間が、ここにかかわっていたことを忘れてはならない。

アメリカでは20年ほど前に、ナットキング・コールが歌う「アンフォーゲタブル」の動画に娘のナタリー・コールが歌を被せて話題となった。これも「死者をよみがえらせる」という点では同じだが、作為はなく、画像と実演をカップリングさせただけだ。これは大ヒットした。今や娘も鬼籍に入ったが、この演出は許されると思う。

NHKは昨年、大相撲でもaiを使って大鵬・初代若乃花・北の湖・貴乃花・朝青龍などの力士の対戦をシミュレーションした。
出演者は「すごい」とか「楽しみ」とか語っていたが、これも問題があった。力士の動きはデータを入力して作ったという。しかし取り組みや勝敗はかなり恣意的なものだと思った。
身もふたもない言い方をすれば、白鵬など今の力士に、初代若乃花など昔の力士は勝てない。60年前の相撲界に、これほど巨大で速く動ける力士は存在しなかったからだ。
スポーツにおいて「体の大きさ」は、絶対的な要素だ。そのことをNHKは、意図的に排除した。

今年は、プロ野球でもこの手のai画像が出てくる可能性はあるだろう。
沢村栄治や金田正一、稲尾和久とイチローや松井秀喜、大谷翔平が対戦するような画像を作るのではないか。
これも身もふたもない言い方だが、昭和の時代のプロ野球選手をそのまま持ってきて、今の選手と対戦させたとしても、全く通用しないだろう。野球だけではないがスポーツは、日々進化している。昔のアスリートが今、通用することはないのだ。
もちろん、先人の努力があって今があるのだから、今の基準ではレベルが低くても先駆者、先人はリスペクトすべきだ。

そういう点を鑑みても黄泉の国から昔の偉大な人々をよみがえらせて、恣意的な演出を加えて「見世物」にするのは、死者への冒涜であり、そこに足を踏み入れてはならないことだろう。

我々は頭の中で「あの人が今生きていたらどうなるのだろう」と想像して楽しむ自由を有している。それを台無しにしたという点でも、NHKはひどいことをしたと思う。

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1960年小野正一、全登板成績【リーグ優勝&最多勝、リリーフで21勝】

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