巨人の山口寿一オーナーが、セ・リーグの理事会にDH制導入を提案した文書がなかなか面白い。
巨人は、DH制を「来季に限り、暫定的に」導入してはどうか、と提案している。
その理由として3つを挙げた。

1.第一に、コロナ禍の中で投手の負担軽減を図る必要があります。今季、セ・リーグは投手の故障者が41人を数え、30人だったパ・リーグを11人上回りました。過密日程に加え、打撃、走塁の負担が関係した可能性があります。

投手にとって、重たいバットをもって打席に立って、バットを3回振るのは本当に重荷なのだろう。だったら、バッターボックスまで車いすや担架に乗せて移動するとか、どうせ打たないのだから、おもちゃのプラスチックのバットで打つとかしてはどうかと思う。
セ・リーグの投手の故障が多かったのは昭和の時代の「先発完投」にこだわるチームが多かったうえに、投げ込みなど古臭い練習が多かったからだ。DH制が投手の負担軽減になるとは思えない。

2.コロナ禍においてもチームの強化に努める必要があります。投手の負担軽減を図りながらチームを強化するには、DH制を暫定導入し、一人でも多くの野手に出場機会を与えて鍛えるのが理にかなっています。

この根拠の「コロナ禍においても」は、枕詞のようなものだろう。山口オーナーは言外に「DH制がないからセはパよりも弱い」と言っているのだ。
ただ、出席した理事の何人が会議中起きていたのか知らないが、このことに気が付く理事は少なかったのではないか。

3.我々はお客様にプロならではの試合を提供する責務があります。セ・リーグでは、点差によって投手がバッターボックスの後方に立ってバットを振らない、または空振りする場面が見受けられますが、プロスポーツとして本来許されるものではないと考えます。

これは本当にその通りだ。打つ気がほとんどない打者が1試合に3度も登場する。チームによっては打席に立つ投手に「打つな」「三振しろ」と指示するところもあるが、人様にお金を取って見せるプロスポーツとしてはあり得ないだろう。

看過できないのは以下の文章だ。

投手の打撃力が近年低下したのは、社会人野球、大学野球にDH制が広く定着したことが背景にあると思われます。社会人野球では1988年以降(社会人野球日本選手権大会など)、大学野球では1994年以降(東都大学リーグなど)DH制が採用され、DH制を採っていない大学野球は今や東京6大学と関西学生野球のみです。

投手が無気力な打席を繰り返すのは、俺たちのせいではなく社会人、大学野球のせいだと言っている。
しかしプロに入ってくる選手の半分は、DHのない高校野球から直接上がってくる。高卒投手が無気力な打撃を繰り返すのは、誰のせいだというのだろうか?
スポーツ本来の姿を忘れて、目先の勝利だけを追うあさましい野球をしていたのは、大学野球か?セ・リーグか?

率直に言って、この提案書で半分寝ているセ・リーグの理事を説得することはできないだろう。

説得のポイントは2つ。

1.(これは少し触れていたが)MLBのナ・リーグもDH制を続けるようですよ。世界のプロ野球でDH制がないのはセ・リーグだけですよ。よそはみんなやってますよ。変に思われますよ。

2.このままではセ・リーグはパ・リーグに勝てないですよ。格下リーグだと思われたら、経営に響きますよ。あなたがもらえるお金も減るかもしれませんよ。


親会社から来たお雇い経営者には、この2点だけで十分ではないかと思う。
「反対」ではなくて「見送り」というところに、怠惰なリーグの体質が現れているが、この議論はオフ中も引き続き行うべきだろう。

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