救援投手の酷使の問題が、議論の的にならない理由の一つに「救援専門投手がプロ野球にしか存在しないから」という問題がある。現時点では、の話だが。
アマチュア野球でも「球数制限」の浸透によって、複数の投手を用意するところが多くなった。
しかし先発投手に比べれば、球数は少ない。そしてアマの試合数はプロほど多くはない。

昨年、日本高野連が決めた目安では「3連投」は禁止だから、救援投手も連投の酷使は生まれないことになる。先発投手は「7日500球」という投げ放題になっているが、高校の救援投手は、その役割に徹する限り登板過多になる恐れは少ない。

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「勝ち点制」大学野球でも、試合は週末の2~3試合なので救援投手の登板過多はほとんど発生しない。社会人野球も同様だ。
高校、大学、社会人はいまだに先発投手の連投があるくらいだから、先発の酷使は多いが、そもそも救援投手は未発達で、まだ活用されていないのだ。

1970年代半ば、プロ野球では先発、救援の分業が始まった。それまではエースがセットアッパーやクローザーも掛け持ちしていたが、エースは先発だけ、他の投手が中継ぎ、抑えを担当するようになったのだ。

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だんだんに先発投手の投げるイニング数が減って、救援投手の投球回数が増えるとともに、救援投手の酷使が始まった。

しかしながら、救援投手は「先発投手になれない投手のポジション」という評価があったために、それほど重要視されなかった。投げすぎで故障をしたり、怪我をすれば「消えていく」のが当たり前のポジションだった。消えていっても、代わりの投手は後から出てくる。救援投手はプロ野球のポジションの中でも最も選手数が多いのだ。

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これは先発投手の肩肘はあれほど慎重に取り扱うMLBでも同様だ。例年MLBでは70試合以上投げる救援投手がたくさんいるが、1000万ドルを超す契約の投手は一握りしかいない。
強豪レッドソックスのクローザーだった上原浩治の最高年俸は900万ドル。例外的に史上最多セーブのマリアノ・リベラの年俸は1500万ドルに達したが、それは同じヤンキースで3番手クラスの先発だった田中将大の2200万ドルにも及ばなかった。
先発に比べ救援投手の登板過多が大きな問題にならないのは、「市場価値が低い」うえに「数が多い」ためだと言ってもいい。要するに市場原理なのだ。
救援投手は使い捨てができるから、酷使してもいいという考え方が根底にあるのだ。

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日米ともに、プロ野球は、野球という競技のトップリーグであり最高峰だ。それ以下のカテゴリーで「投手の肩肘を大事にすべき」という考え方が生まれるのは、「プロ野球で活躍することができるように」という大義名分がある。もちろんそこまでいかないレベルの選手は「生涯野球を楽しむために」も大義名分になるが。

だとすればプロ野球で「投手の肩肘を大事にすべき」理由は何なのか?
ひとつには、優秀な投手の素晴らしいパフォーマンスを少しでも長く見せてほしいから。プロに行くような優秀な投手は、故障せずに長く活躍してほしい。
しかしながら、救援投手の多くは「優秀な投手」の枠から外れているように思う。

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先発投手の肩肘を大事にするトレンドは、今後、日本でも間違いなく進行すると思うが、そうなればなるほど、救援投手にしわ寄せがくる。しかし取り換えが利く救援投手の酷使は顧みられない。

この状況をどうすべきか、今の私には答えがないが、この問題意識は常に持っておくようにしたい。


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