森喜朗は、川淵三郎に泣きついたわけだ。自分より若い人に頭を下げるのが嫌だったのかもしれない。しかし83歳から84歳へのバトンタッチとは。
マスクをした川淵三郎の目はしょぼしょぼしてうるんでいる。もう書類なんか読めないんじゃないかと思う。

今回の騒動は「森喜朗は悪いやつだ」という話では全くない。もともと五輪を含む日本スポーツ界、そして政治経済界は「女なんか人のうちに入らない」と思うような男性の社会だった。「会議」という儀式で正式決定するまでに重要なことは自分たちで内々に決めるのが通例だった。だから新型コロナ禍でも政治家たちは茶屋酒を飲みに行ったわけだ。
世界でジェンダーバランスへの意識が高まってきたから、スポーツも政財界も女性の比率を上げたが、彼女たちはお飾りであり、実権からは程遠かった。日本では重要なポスト、実験あるポストに選挙以外で女性が就くことはほとんどなかったのだ。
端的に言えば、そういう組織の男性にとって「女性」は、並び大名でしかなかった。

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森喜朗はそういう社会の代表者だったが、頭がすこーし悪くて「本当のこと」を公衆の面前で行ってしまった。それで叩かれたが、悪いとは思っていないからちゃんと謝罪できなかったのだ。
自己嫌悪も感じて辞職を考えたが、同じような感覚の五輪組織委の男たちに「これしきのことで辞めないでほしい」と言われ思いとどまったのだ。辞職すべきは、森を担ぎ上げた組織委の全メンバーではあっただろう。

川淵三郎は、森喜朗とは異なり、アウトローになることをいとわない。オリンピアンでありドイツ留学の経験もある。ジェンダーに関してもその重要性はわかっている。ただし、本人が「男尊女卑」の意識がないかどうかはわからない。
また川淵三郎は「壊し屋」と言われる。サッカー界でもバスケット界でも、既得権益に固執する人や組織を壊してきた。その際の判断基準は「私利私欲」は排除し「公益」を守るというシンプルなものだった。

84歳でもあり「恐いものなし」ではあろうが、今回の相手はスポーツ界ではなく、うつろいやすく御しがたい「国民」である。スポーツ界や政財界は最後まで「五輪を何とか実施したい」と思うだろうが、国民は厭戦気分でいっぱいだ。
川淵三郎は、どちらの立場に立ってモノをいうかで今後の評価が大きく変わってくるだろう。

空気を読まない人なのでいきなり「こんなのできるはずないじゃないか」と大声を上げる可能性があるが、そうなれば国民は拍手喝采するだろうが、組織委は「背信だ」と怒るだろう。
しかし組織委の意をくんで「やるといったらやるんだ」と大ナタを振るえば、森喜朗の二の舞を踏むのは間違いない。

ただし今の東京五輪は「いつ、だれが『撤退』を口にするか」という段階に来ている。ワクチン接種でも日本政府は間抜けな対応が続いているが、そんな中で開催できる可能性は限りなく小さくなっている。
例えば川淵会長がバッハ会長と直談判して「中止」ではなく「延期」にすることができれば、これが一番まともな着地点になる。

いずれにせよ非常に難しいが、こういう空気を読まないお年寄りだからできることもあるのではないか。


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