新庄剛志の「薬物疑惑」について「文藝春秋」の記事を読んだ。文春の表紙にも鷲田康さんの名前と記事の見出しがあったから、この号の目玉の一つだったと言えよう。

もう一度整理すると、新庄剛志は現役時代の2006年開幕直後、NPBが初めて実施したドーピング検査を受けた。チーム全員ではなく抽選で彼が選ばれたのだが、その検査で尿から覚せい剤成分が検出されたため、驚いたNPB側は警視庁に届け出て検体も提出した。新庄も事情聴取を受けた。しかし警察は「問題なし」と判断した。覚せい剤取締法で規制されている薬物ではなかったからだ。
新庄はMLB時代から服用しているサプリメントが原因だと話し、今後は使用しないと謝罪した。
このサプリは「グリーニー」ではないかと推測されている。ジム・バウトンの『ボール・フォア』などにも出てくるが、MLBでは多くの選手が常用していた興奮剤だ。

この時の検査は非公開で行われ、その結果も公表されなかった。そしてNPBは2007年にグリーニーを禁止薬物に指定、2008年にはドーピング検査に引っかかった巨人のルイス・ゴンザレスが追放されている。

このドーピング検査が極めて緩いものだったようで、野村貴史などは後になってグリーニーを日常的に使用していたと語った。2016年に清原和博は覚せい剤の所持で逮捕され有罪判決を受けたが、彼も現役時代にグリーニーを使用していたと報じられた。清原は2008年まで現役選手だった。
NPBでグリーニーなど体内でアンフェタミンに代わるような薬物の使用が根絶されたのは清原が逮捕された2016年以降ではないかと思われる。

新庄がひっかかった2006年の時点ではNPBは「違法薬物を禁止」していなかった。だから新庄はグレーだと思うのだが、鷲田さんはWADAが2004年の段階でグリーニーの主成分であるクロベンゾレックスを禁止薬物にしている。NPBも2005年にかけて実施した講習会で「禁止薬物はWADAの禁止薬物リストに準ずる」と通達している。その状況下で実施されたドーピング検査で新庄が引っ掛かったのだから問題があるとしている。

これ、微妙な話ではある。NPBもWADAの方針に準ずる意志があったから2006年にドーピング検査をしたのだが、これはあくまで「予備的」な検査だった。たまたま新庄がひっかかったが、この時点では不問に付し「以後気を付けるように」と言う処分にしたのだ。
甘いと言えば甘いが、この時期は規制内容を周知徹底させるための「準備期間」「移行期間」だということだろう。選手には「この期間に薬物使用をやめて、きれいな体になれ」ということだったと思われる。
新庄の場合も「準備期間」の違反者だったから、処分がなかったのではないか。この年に新庄は引退しているが、そのことと「薬物違反」を結び付ける根拠は弱い感じがする。

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この記事では、新庄剛志に薬物違反の事実があったこと、そして監督就任時にそのことを新庄自らが公表するなど説明責任を果たさなかったこと、さらには球団側もこの事実を公表していなかったことを問題視している。

しかし、新庄や日本ハム球団が「16年前の非公表のドーピング検査での違反」を公表しなかったことで、2022年の監督就任の適格性を問うのは、いかにも弱いような気がする。
私は新庄剛志の監督としての適格性には強い疑問を持っているが、それと薬物問題は今のところ関係がない。
例えば、新庄剛志が以後も薬物を使用していたとか、球団がそれを知っていたのに監督に起用したとか、新たな事実が出てくれば別だが、この記事はスクープとは言えないのではないか。

裏に何かある可能性はあるだろうが、書かれている内容だけ見ると、スキャンダルとは言えないように思う。
後追い記事がほとんどないことから見ても、この文春砲は不発に終わるのではないか。



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