NPBのエクスパンションの話が出ると「あんな田舎にプロ野球チームを作っても、客なんて誰もいないだろう」という声が出る。「電車も通っていないし、年よりしかいないし、所得も低いし」みたいにネガティブ情報を列挙する人もいる。
大体そう言う人は、マーケティングを勉強していない人だ。
既に成功している商品の追随商品を販売したり、そのビジネスモデルをそのまんま模倣するのならともかく、あらたな店舗、商業施設を新しい土地に出店したり、新商品を販売するときには、多くの不確定要素があり、リスクを踏んで挑戦するのが当たり前だ。

プロ野球が新たな地域に新球団を創設する場合も同様だ。3万人規模のスタジアムがあることが前提になるが、器があったとしてもお客が来る保証は何もない。ここから、ファン層を醸成するための気長なアプローチが始まるわけだ。
球場周辺の地域住民の年齢、職業、家族構成、所得などをもとにマーケティング手法を考え、実施する。野球ファンだけでなく、幅広い層を巻き込むようなイベントを企画し、集客を促していく。

昭和の時代のプロ野球は、巨人戦の「放映権」に頼っていたから集客マーケティングにはあまり熱心ではなかった。パ・リーグ球団は「赤字」が前提で、親会社はいかに損失補填を小さくするかばかりを考えていた。セ・リーグ球団は巨人戦依存で、あとは何もしなかった。

当時のプロ野球の「集客策」といえば「タダ券」を配るくらいだった、私は大阪球場のタダ券をいろんなところからもらって入ったが、結局、それは「もともと野球を見るつもり」だった客を無料で球場に入れているに過ぎない。つまり機会損失だ。もともと行く気がない人はタダ券をもらったって行かないのだ。

今「エクスパンションなんかしたって客なんか増えないよ」という人の多くは、そのころの感覚でモノを言っている。おそらく12球団の経営者の多くも似たような感覚だ。

しかし2005年にリーグ戦に参加した楽天は、18年の歳月で仙台市を「イーグルスファンの町」にした。宮城県営球場はその昔ロッテが本拠地にしていたが、マーケティング手法など知らない当時の球団は、ひたすら経費を節約しただけで、球場は閑古鳥が鳴いていた。
しかし楽天は、老朽化した球場を時間をかけて改修するとともに、JR仙台駅から約2㎞の大通り周辺を地域と共に整備し、一体感のある「イーグルスタウン」にした。IT企業楽天は、球団を採算化するために何をすればよいのかをよく知っていたのだ。
球団ができる前から仙台に行くことがあった私は、どんどん変わっていく街並みに驚いた。

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エクスパンションとは、養魚池に無造作に釣り糸を垂れることではない。流れのはやい川にどんな魚がいるかを調べ、その魚が好む撒き餌を良いタイミングで投げつつ、少しずつ釣果を上げていく営みだ。

スポーツビジネスに携わる者にとってエクスパンションほど心躍ることはないと思うが、NPBやスポーツ界からはほとんど「やりたい」と言う声が上がらない。
いい飽きた感があるが「退職金の勘定ばかりしている」親会社からの出向役員が、球団を牛耳っているからだろう。

事業意欲のない業界が、今後栄えることなどありえない。



NOWAR


1960~62年柿本実、全登板成績

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