私にとっては、今の市川猿之助よりも父の市川段四郎の方がなじみが深い。
この人は、今の市川猿翁、つまり三代目猿之助の実弟で、猿之助歌舞伎では、澤村宗十郎や市川門之助とともになくてはならないわき役だった。風貌は兄の猿之助にそっくりだったが、芸風は穏やかで堅実だった。屋号を澤瀉屋(おもだかや)と言う。

この人の息子が伯父の猿之助の跡目を相続したのは、実子の香川照之が歌舞伎界を離れていたからだ。子役時代に大河ドラマ「独眼竜政宗」で人気となり、長じて歌舞伎の花形役者となった。
猿之助の一座は、この間物故した市川左団次の系統から出た家柄で、同じ市川でも団十郎宗家に比べれば、門閥としてはかなり落ちる。しかし、先代猿之助が、宙乗りなど派手な演出と、けれん味で、昭和の時代になって人気となり、歌舞伎界の主流とは別の一座として、松竹でも重きをなしてきたのだ。

ただ、そういう非主流派閥であっても歌舞伎界の古い因習は残っている。門閥の役者は生まれ落ちたときから「特別」で、御曹司として育てられる。この一門には市川右近をはじめ、市川笑也などノンエリートの人気役者はいるにはいたが、その中でも猿之助は特別の存在だった。

小さなころから年上の役者を呼び捨てにしたり、罵声を浴びせるようなこともできる立場だった。また花柳界でも歌舞伎役者は特別の存在であり、あたかも支配者のようにふるまっていた。

今週、市川猿之助をめぐるセクハラの記事が載ることを苦にして、親子ともども自殺を図ったと言う。
恐らくは従弟の香川照之がセクハラ事件で芸能界から抹殺されたことに恐怖を感じたのであろう。

私は歌舞伎など芸界の「セクハラ」に同情の余地はないとは思うが、未だに門閥があり、多くの人々がかしずくような異常な世界が存在して、今の常識からみて考えられないような特権意識を持っていることは、抑えておく必要があるとは思う。

香川照之は少し違うが、猿之助などはそういう「世間と常識が異なる環境」で生きてきたのだ。自分たちには普通だと思えることが「異様なこと」になってしまう世の中になって、彼らは立ちすくんでしまっている。
最近、音羽屋(菊五郎)一門でもパワハラのスキャンダルが出たが、歌舞伎界をマネジメントする松竹は、歌舞伎界の在り方、常識を一度整理する必要があると思う。女性関係、上下関係など社会常識と乖離している風習については、ただしていく必要があるのではないか。

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文春は京都の花柳界にも切り込んだ。日本の古い因習、とりわけ男尊女卑についてどんどん切り込んで問題点を晒していくことは、非常に有意義だと思うが、責められる側の伝統芸能など古い社会も、これを奇貨として彼らの社会の仕組みを変えていくべきではないか。

今のままだと文春砲などの「入れ食い」状態になりかねない。「伝統だから」で済ませていたことを、改革していくことは、古い社会にとっても有意義なアップデートだと思うが。


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