私も昔は「草野球=低レベルの野球」だと思っていた。若い頃はさんざん草野球をしたから、そういうのを「レベルが低い野球」だと思っていたのだ。
しかし、いわゆる「底辺校」の取材を続けているうちに、「弱い野球チーム」を「草野球」というのは違うのではないかと思った。

草野球の「草」とは「非正規の」「非公式の」「寄せ集めの」というニュアンスがある。
「草相撲」からの派生だ。「素人相撲」のことだが、そもそもは「田の草相撲」と言ったらしい。
百姓が農閑期=田の草を取るような時期に、相撲を取って楽しんだことに由来するという。

江戸から明治にかけて、日本中に草相撲があり、神社への奉納相撲をすることも多かった。草相撲の大関は地域の人気者だった。江戸中期以降、各地に相撲興行団体ができて草相撲の力自慢が入門した。
興行団体の中には、草相撲より実力的に劣るものもあったが、それでも興行団体と「草相撲」は、別個のものだった。
草相撲は「本業がある」者が趣味で相撲を取っていたが、相撲興行は「相撲が本業」だったのだ。

この「草」のニュアンスは「草競馬」でも使われる。「草競馬」とは馬券を発行せず、アマチュアの馬主、騎手によって行われる競馬だ。

「草野球」も、プロではなく他に仕事を持っている選手によって行われる。しかし日本では社会人野球は他に仕事を持っていても「草野球」とは言わない。野球は「仕事の内」だからだろう。
また学生野球は学業と言う「本業」があるが、一方で野球は「部活」であり「教育の一環」だ。だから「草野球」ではない。

こうして考えてみると日本語の「草」には「純然たる遊び」というニュアンスがあると思われる。
「遊び」だから、勝つことよりも「楽しむこと」を目的とする。また規範意識はそれほど厳しくない。「厳しさ」よりも「楽しさ」を求める。

大学の「体育会系」と「同好会」の違いに近いのかもしれない。

しかし草野球だからレベルが低いというわけではない。何度も取材した熊本浩志さん率いる「東京バンバータ」などは元プロ野球選手もいて、軟式野球でもレベルは極めて高い。

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高校野球で、メンバーがそろわないような野球部、レベルが低い1回戦ボーイの野球部などを「草野球」と呼ぶ人がいるが、これはその学校にも、草野球にも二重に失礼な表現だと思っている。

弱小校の野球部の取材もたくさんしているが、彼らはメンバーがそろわなくても、レベルが低くても顧問の教師がいて、部活として活動しているし「県大会出場」とか「1勝」とか目的意識を持っている。頻度は少なくとも練習をしているし、草野球とは全く違う。

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また、私は「草野球」が「レベルの低い野球」「いい加減な野球」というニュアンスで語られることにも抵抗感を覚える。「野球を楽しむ」こと。「自分の能力に応じて、野球にかかわる」ことは、何ら低レベルでもないし、いい加減なことでもない。
日本の野球は草野球選手を中心とした「野球好き」によって支えられて、発展してきたのだ。

「あの学校は草野球なみだ」という言葉の裏には「弱い野球は意味がない」「へたくそ野球はどうでもいい」という勝利至上主義がこびりついている。見方を改めるべきだ。


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