12月の終わりに「戦力外通告」というドキュメントをするのは、誰しもが来し方行く末を思う年の瀬に「自分たちよりも大変な人がいる」と思うことで、視聴者に多少の優越感を与えるためだろう。事実、視聴率は良いようだ。
今年は広島の薮田和樹、元ヤクルトの中山翔太、元日本ハムの高山優希が出演していた。

私は例年通り12球団の合同トライアウトの取材をしていた。TBSは例によって小さなカメラで選手を追いかけていた。しかしながら、トライアウトの相場からして「一度NPBを離れて、独立リーグや社会人に転じた選手がNPBに復活することはまずない」のだ。
また薮田も好成績を上げたのは2017年だけで、あとは全く振るわなかった。しかし育成枠でとれる選手でもなかったから、可能性は低かった。

今回のトライアウトは、例年と少し違っていた。オイシックス新潟アルビレックス、ハヤテ223というNPBのファームリーグに参加するチームもGM、監督が見に来ている。
トライアウトに出場する選手は本音で言えば「独立リーグにはいきたくない」のだ。だからほとんどの選手が諦めるところを「NPB未満、独立リーグ以上」のチームが出てきて「受け皿」になったというところだった。

ハヤテは、12球団トライアウトの前に独自のトライアウトをしていた。私はそちらも取材に行ったが、NPB出身者は初日の体力テストはパスして、実技からの参加だった。当然の話だが、実績のあるNPB選手は優先してとる形だったのだ。
しかもハヤテのトライアウトを受けた選手が、その後、12球団合同トライアウトを受けることも認められていた。つまり実質的にハヤテという「内定」を1枚持ってNPBのトラアウトに参加している選手もいたのだ。

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それもあって、今年のトライアウトの雰囲気はかなり違っていた。私は薮田、中山、高山の囲み取材にも参加したが、薮田、中山ともに悲壮感はそれほどなかった。
ただし高山は、かなり上気していた。彼は大阪桐蔭から日本ハムに入団したが、一軍の試合に出場していない。さすがにそういう選手は、その評価は厳しいので感極まっていたのだ。

さらに言えば、トライアウト会場の周辺には、保険会社など各社のスカウトマンがいる。彼らは選手を好待遇で迎え入れようとしている。

テレビ的には「路頭に迷う元選手」の姿を追いかけたいのだろうが、3人のうちで本当に悲壮な気持ちでいたのは高山だけだったはずだ。

「人の不幸は蜜の味」というかなり残念な旋律で作られる「戦力外通告」だが、実際の現場とはかなり乖離つつあるように思う。


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