おそらく江川騒動以来のインパクトだったと思うが、読売新聞を除くマスコミ各社は、一夜明けて大きな紙面を割いた。まさに「人の不幸は蜜の味」である。
読売新聞が、べた記事でしか報道しなかったのは仕方のないことだ。どちらサイドにもつけないし、身内のもめ事をネタにもできない。事実を書くだけにとどまった。
一般紙は、おおむね清武さんの行動に賛意を表する論調だ。マスコミはバランス感覚が働くから、彼の言動に疑問を呈する意見も載せてはいるが、「これで新しい時代が来る」的な期待感をにじませるものが多かった。ただし野球チームのドンというより、ライバル新聞社の社主の失脚を願う気持ちが込められているように思う。
スポーツ新聞は、大々的に報道しているのだが、中身を読むと、公平に両者の言い分を取り上げている。ライバル新聞社系であるのに、渡邊会長にも、清武さんにも配慮を見せている。これは、後々、球団から取材拒否をされては困るという意識があるからだろう。
興味深いのは報知新聞だ。他のスポーツ紙と同様、清武さんの記者会見を一面トップででかでかと取り上げている。内容的には独自情報などはないが、双方の言い分を慎重に伝えている。ライバル紙が清武ネタで部数を増やす中で、立ち遅れたくないという営業の意識が働いたのだろう。江川騒動の時も、当時の報知新聞は当初、大々的に報道していた。
夕刊フジは「清武孤立、解任も」という見出し。なぜか渡邊会長サイドに立った論調が目立った。笑わせたのは、清武さんが今回の行動に出たのは、渡邊会長からGMとしてチームを一任されたにもかかわらず実績を上げることができず、解任されそうになったからで、首を切られる前に自爆テロ的に記者会見を開いたという記事。言わずと知れた江尻良文大編集委員の論調である。彼の両手の指紋は擦り切れているに違いない。

清武さんへの批判は、一企業の内紛をマスコミにさらけ出し事態を優位に運ぼうとしたことを、子供じみている、とか、経営者としてみっともないと批判するものが多い。しかし、これは事実を矮小化している。
清武さんがその横暴を指弾しているのは、どこかの中小企業の経営者などではない。日本最大級のメディア会社の総帥であり、政治、そしてプロ野球界に強大な影響力を有している(と思われている)人物だ。彼は、何ら正当な資格も立場も有していないのに、他企業のお家事情に介在し、人事に影響力を与えてきた。またそのことを自慢げにひけらかしてきた。口は悪いが“町の顔役”。“隠然たる力”があることが、嬉しくてならないという感じだ。子供じみているとは、むしろこの人のことだろう。そして彼の存在が、旧弊な野球界の改革の大きな妨げになっていたことは紛れもない事実だ。
清武さんは記者会見で、渡邊会長の「隠然たる力」に正当性がないことを身内から鋭く指摘した。このことに世間が気づき、渡邊会長が権力を失うことで、多くの物事が堰を切ったように改まる可能性があった。たとえ、清武さんが自己保身や売名のために記者会見を開いたのだとしても、彼のしたことは、NPBの体制変革に大きな影響を与える可能性があったと思う。





夜になって、渡邊会長側から反論のコメントが出た。清武さんの会見内容に逐一反論し「まことに非常識で悪質なデマゴギー」で名誉棄損と指弾。さらに江川ヘッドコーチは「原君(辰徳監督)から提案された」。企業秘密を公表されたことは「取締役の忠実義務違反」に該当するとした。さらに清武さんは最近「尊大になった」という批判があり、GMは「適任ではなかった」、今年の「清武補強」ほとんど失敗だった、と切って捨てた。そして最後に「謝れば許してやる」と付け加えた。
小さい小さい、渡邊会長は本当にビビッているのだと思った。清武批判の部分は、江尻大編集委員のコラムによく似ているのも笑えた。
本当に大物ならば「いろいろと行き違いはあったかもしれないが、大所高所に立って巨人とNPBの将来を考えて行った決断だ。非常時には強権発動もある」と言い切ればよかったのだ。

賛同者がそれほど集まっていないようなので、清武さんの反乱は失敗に終わる可能性もあると思う。しかし、最も信頼していた身内からの造反は、渡邊会長に大きなダメージを与えるはずだ。もう十分に晩節を汚しているが、ここらが身を引く最後のチャンスだろう。

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