火曜日、巨人の桃井オーナーが宮崎の巨人キャンプを訪れて原監督と2年契約を結ぶとともに、岡崎郁ヘッドコーチの留任も発表した。なんじゃこりゃ、という思いで事態を眺めている人は多いだろう。
そもそも桃井オーナーは、渡邉恒雄読売新聞会長から来季の降格を告げられている。読売新聞本社から新しいオーナーがやってきて、桃井さんはその人の指揮下に入るのだ。
そんな半死半生みたいな人が、宮崎に飛んで契約交渉をする。しかも、渡邉会長と清武代表がその去就をめぐって大げんかをした岡崎郁ヘッドの留任まで決めているのである。
さらに、桃井オーナーは、「当面清武代表には仕事をしてもらう」とも語った。「心配はあるけど」って、心配だらけでしょうが。組織のトップに向かって反旗を翻した人を、部下として引き続き使うのだから。
思うに、来年86歳になる渡邉代表は、20歳も若い部下とケンカをする「精」も「根」もないのだと思う。「おい、桃井、清武の件、適当にまとめてくれや。どうでもいいから」みたいな指示があって、宮崎へ飛んだのではないか。
傲岸不遜、自己肥大の塊のような渡邊代表だが、子飼いの部下に真っ向からはむかわれたことは、よほど応えたに違いない。清武さんは本当にかわいい部下だったのだろう。また、世論の風当たりの強さも身に染みたのではないか。
渡邉会長は、戦後すぐの日本共産党の草創期に、東京大学学生細胞のリーダーになったが、最後は「非民主的ボス性の排除」という名目で除名されている。権力闘争に強そうに見えながら、下からの突き上げには案外もろいのかもしれない。
また、渡邉会長は「どうしても江川卓をヘッドコーチにしたい」と思っていたわけではないように思う。ただ単に自分の影響力を行使したかっただけだろう。それにこだわることで、どんどんと鬱陶しい事態が起こるのは、御免こうむりたいと思ったのだろう。今となっては、事件の幕引きと、体制の原状復帰を願っているのではないか。
盟友と言われる三宅久之さんが、「彼はそんなに悪い人じゃないですよ。気配りもできるし」と言っていたのを思い出した。喧嘩がそれほどうまくないのだろう。
池乃めだかみたいに、涙目になりながら、一生懸命肩をそびやかして「これぐらいで、堪忍したらぁ」と言っているような趣がある。







清武さんも、桃井さんも、渡邉会長も、自らの面子や立場が定まらないままに、日常業務に戻ろうとしている。ゾンビみたいな顔色で、平静を装おうとしているようだ。
しかしながら巨人は、この事件が始まる前の体制には戻らないと思う。「雨降って地固まる」のは小雨の時であって、どしゃぶりではそうはいかない。
内部の人間も、遅ればせながら改革の必要性を感じるだろう。世間も、まるで中小企業のワンマン社長のように勝手気ままな人事をする渡邉会長に嫌気がさしたはずだ。日本を代表する言論メディアでありながら、民主主義とは程遠い権力構造をもっている「読売グループ」に疑問を感じもしたはずだ。読売サイドとしても、そんなイメージが広まるのは避けたいところだ。決裁ルールやレポートラインは改善されると思う。
渡邉会長の権力は、相対的に弱まるはずだ。放言癖も多少はおさまるのではないか。そして、彼が主唱する「巨人あってこそのプロ野球」という考え方も一歩後退するだろう。ただし、清武さんがこのまま組織に踏みとどまって、手腕をふるうとも思わない。組織は一度反旗を翻した人間を許すほど甘くはない。
広岡達朗さんは「オーナー、GMなどの責任、役割分担が明確でないからこういう事件が起こる」と指摘したが、正鵠を射ている。この事件を奇貨として、NPB各社が「プロ野球ごっこ」から本当のプロ集団になればよいと思う。

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